DXニューノーマル
「なぜ、DXは失敗するのか?」トニー・サルダナ著 小林啓倫訳
近ごろ耳にする「DX」。え? デラックス? なんて言ってると時代に取り残されますゾ。
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DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略。つまりデジタル時代に対応した変革ということだが、アメリカの著名コンサルタントの著者はあっさり「DXの70%は失敗する」という。なにしろシアーズ、メイシーズ、ニーマン・マーカスのような百貨店業界の並み居る有名どころはむろん、ティファニーや大型バイクのハーレーダビッドソンですらDXに成功したとはいえないからだ。
著者はその理由を「デジタルをする」と「デジタルになる」の違いで説明する。前者はパソコンを導入したりインターネットを使ったりすること。しかし本当に大事なのは、企業の体質自体をデジタル化すること。著者の表現では「企業のDNA」を変えることだ。
たとえば新聞業界が軒並み沈没する中、アマゾンのジェフ・ベゾスが買収した「ワシントン・ポスト」だけは業績を回復した。なぜか。デジタル版紙面の表示速度や動画との連携を強めるためにベゾスは技術陣を3倍に強化し、彼らがいつでもベゾスに直接コンタクトできるようにする一方、同社で開発した新聞・出版業界用のプラットフォームを業界向けに販売し、それだけで年間1億ドルの収益を見込むまでに育てたのだ。
実例を紹介しながら「3割のDX勝ち組」をめざす方法を紹介している。
(東洋経済新報社 2640円)
「DXの思考法」西山圭太著
DXでいう「トランスフォーメーション」は単なる変化ではない。通産官僚を経てデジタル業界に転身した著者はこれを「かたちが跡形もなくすっかり変わる」ことだという。要は旧来の常識をすべて捨てろということだ。
たとえばDXは企業単体で成功させるものではない。ゆえにDXに対応できない相手先は、たとえ系列会社であっても他社に乗り換えるしかない。
著者はDXの思考を「ミルフィーユ化」という。デジタル化にはサプライサイド(供給側=企業側)とユーザーサイド(顧客側)の2つのレイヤー(階層構造)があり、これを夏目漱石の文学論を素材に説明するという面白い試みをする。この2つの層が重なり合うことをケーキのミルフィーユみたいというわけだ。
(文藝春秋 1650円)
「DXとは何か」坂村健著
著者は1980年代から日本のデジタル化を理論的に率いてきた東大名誉教授。その人が日本企業のDX化の弱点を、旧来の成功体験にあると指摘する。
日本企業では現場の部署が個々ばらばらに効率化を図ってきたが、それは部分だけの最適化に過ぎず、全体の見直しではなかった。最近はやりのRPA(ロボット化によるオフィスワークの自動化)も、事務作業全体のワークフローを見直さずに「事務作業数千時間分の削減」などとイバっても仕方ない、とずばり直言している。
内閣府がようやく言い始めた押印廃止の動きの遅さなど、まさにこの悪しき好例(?)というべきだろう。
(KADOKAWA 990円)