中国という問題
「中国の何が問題か?」ジェニファー・ルドルフ、マイケル・ソーニ編 朝倉和子訳
独裁と独善の色をますます強める習近平の中国。そこに横たわる多様な「問題」に迫る。
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米ハーバード大学のフェアバンク中国研究センター。設立から今年で66年になるこの研究所は世界中から一流のシノロジスト(中国研究者)が集まり、米政治への影響力も甚大な存在。本書はその設立60周年を記念して16年に出版された小論文集である。
トランプ対ヒラリーの大統領選の年に出版された本だから、その後急速に悪化した米中関係の影は薄いはずだが、本書をよく読むと実は既に中国の政治体制に疑問が投げかけられていたことがわかる。
たとえば巻頭のエリザベス・ペリー教授(行政学)は、現代中国がM・ウェーバーのいう国家の正統性の根拠となる「伝統、カリスマ、合法性」のどれも当てはまらないという。中華帝国の伝統は壊れ、毛沢東のカリスマは消失、合法性をめざす近代的改革も習近平時代になると逆行が目立っているからだ。
自分に都合のいい御用学者を育成しようとする習近平の考えも、現代の中国政治制度が旧ソ連からの輸入品でしかなく、革命前の中国とはなんら関係がないことを考えると国際的な支持を得るのは難しい。逆にいうと西側の中国研究はそれぐらい進んでいるわけだ。それでも現在の「独裁体制がただちに正統性を失うという確かな根拠はない」とも同論文は指摘する。それを証明するのは習の独裁体制が倒れることによってだけ、だから。不気味な動乱の気配がただよう。
(藤原書店 3300円)
「中国法」小口彦太著
一見そっけない書名だが、副題に「『依法治国』の公法と私法」とある。公法は憲法や刑事法など公権力の行使にかかわる方面。私法は民法など私的な領域での法律だ。「依法治国」は法によって国を治めるという意味だが、中国政治ではポスト毛沢東の鄧小平時代に作られた現在の中国法の「質を問う」意味が込められているという。中国が本当に近代化するには「党政不分」(党の権力と政治の権力の未分離)状態を解消しなければならない。これが鄧の考えだった。しかし現在の習近平体制は独裁の色を強め、明らかに逆行しているのだ。
著者はこのように本書の意義を説明し、判例に即して中国法の執行状況を精査。結果として得られたのは「民法においては公平で先進的」な中国法が公法においては人権無視もはなはだしいという実態の確認だ。まさに中国の根本問題がここにある。
(集英社 946円)
「在日ウイグル人が明かす ウイグルジェノサイド」ムカイダイス著
新疆ウイグル自治区は中国当局にとって頭の痛い問題。国際社会が中国に向ける厳しい視線もここに由来するところが大きい。
本書の著者はウルムチ出身のウイグル人で中国や日本の大学に学び、ウイグル語の講師のほか、日本とウイグル文学の懸け橋になる仕事をしているという。日本ではウイグルとチベットが混同されるほど浅い理解しかないが、著者はウイグルの歴史から中国の「植民地」状態になったプロセス、中国の強権による強制収容所の状況、そしてウイグルの文学や文化の紹介と、日本人にとって役立つ初歩的な情報から複雑な現状までを伝えている。
ウイグルには、かつて日本が満州国や関東軍を通して共産中国の浸透を阻止しようとした「防共回廊」の歴史があったとする説が根強いのだという。著者もその信奉者だ。
(ハート出版 1540円)