鉄道七変化
「鉄道と政治」佐藤信之著
ますます盛り上がる鉄オタブーム。おかげで鉄道本のバラエティーもハンパない。
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著者は「通勤電車のはなし」など、身近な話題をとりあげた新書も書いている交通評論家だが、ここでは専門の交通政策にしぼって日本の戦前戦後史をたどる。
かつて高度成長・列島改造の時代は鉄道誘致は政治家にとって票集めの一大事業だった。ところが「失われた30年」の中では、北陸新幹線の建設費の地元追加負担をあっさり新潟県知事が拒否するなど、大きな変化が起きている。2022年度の開通をめざして建設中の九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)も、佐賀県の地元で歓迎しているのは一部だけだ。
本書は明治時代から戦前戦中戦後までをたどり、鉄道事業が日本の政治や社会といかに深く結びついて利権化してきたかをたどる。
副題の「政友会、自民党の利益誘導から地方の自立へ」がまさにそのまま語られる。
最近では災害の激甚化にともなって、鉄道なら地元のインフラの復旧復興問題が地方分権とからめて大きな注目を浴びている。
「国土強靱化」を掲げた安倍内閣、「自助・共助・公助」を唱えながら権力にしがみつく菅内閣とも、インフラとしての鉄道事業の未来には大きな責任がある。
(中央公論新社 1034円)
「廃線寸前!銚子電鉄」寺井広樹著
その名の通り千葉県銚子に本拠を置く銚電。大正時代の創業以来、幾度となく廃止・再興を繰り返した歴史を持ち、60年代にはライバルに当たるバス会社の千葉交通に買収され、親会社となった千葉交通が銚電の廃止を決めるという不思議な先例までつくった。しかもその後は、廃止論のたびに市民が市や千葉交通に働きかけ、なんとか存続してきたのだ。
いまも年間5億円程度の売り上げのうち、およそ8割が鉄道以外から。「まずい棒」や「奇跡のぬれ煎餅」など自虐ネタもどきのネーミングで銚電ブランドの駄菓子を成功させてきた。本書はその“自虐マーケ”の歩みを中心にした面白本。鉄オタならずともグッとくるエピソード満載。
(交通新聞社 990円)
『リニアが壊す南アルプス』「ストップ・リニア!訴訟」原告団南アルプス調査委員会編著
2014年にユネスコのエコパーク(生物圏保存地域)に登録された南アルプス。日本第2の高さを誇る北岳を中心に、3000メートル級の山々が連なる。
そこに、いきなりリニア中央新幹線を通す計画が持ち上がる。
JR東海の調査にもずさんの声が絶えない。そこで立ち上がったのが、本書の著者となった訴訟の原告団と「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」。その調査と提言をまとめたのが本書だ。
リニア新幹線を強行すればエコパーク登録も抹消されてしまう危険があり、自然破壊にとどまらない日本へのダメージになり得る。なにしろ「女性の社会進出」も「自由な報道」も国際ランキングでことごとく劣等生なのが日本。エコ意識でも一敗地にまみれるわけにはいくまい。
(緑風出版 990円)