データを味方に
「経済は統計から学べ!」宮路秀作著
なにかにつけては「エビデンス!」の昨今。そこで強い味方になるのが「データ」だ。
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本書の題名、どう見たって統計学や経済学の専門家によるものに思われる。ところが著者は代々木ゼミナールで「地理」を専門とするプロ講師だという。
実は地理学は統計数字だらけの分野。地形、気候、人口や生物の動きなどはどれも数字で把握される。本書はそこに人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境の6つの切り口で迫ろうという趣向である。
例えば、世界各国の人口統計を見ると、2027年ごろにインドが中国を抜いて世界一の人口国になり、逆に日本は潜在扶養指数(現役の働き手世代に対する年少と年長の被扶養者世代の割合。値が小さいほど扶養者の人数が少ない)が1・8と世界最低を記録するだろうという。いよいよ日本の衰退は明らかなのだ。
しかし、対策もある。例えば、ロシアが導入した「母親資本」。一定の受給条件のもとで第2子を出産すると補助金、第3子以降も種々の支援や優遇がある政策で、ロシアは出生率がV字回復したのだ。さまざまな問いかけが3~4ページでわかりやすくまとめられ、ベテラン進学塾講師らしい手際の良さを見せている。
(ダイヤモンド社 1760円)
「Numbers Don't Lie 世界のリアルは『数字』でつかめ!」V・シュミル著 栗木さつき、熊谷千寿訳
近頃は日本語の本に英語題名がそのまま付く時代になったらしい。「数字はウソをつかない」という本書の著者は、環境問題や人口変動について精力的な発言を続けるカナダの大学教授。
目次にはずらりと「食」「環境」「エネルギー」など現代的なテーマが並ぶ。各論ではワクチン接種でどのぐらいリスクが低減されるか、電気自動車は本当にクリーンか、といった具体的な問いかけが目につく。
前者は、ワクチン価格や供給網の整備費用に対して感染していなければ得られただろう賃金や生産性などを考慮する。その答えは「ワクチンに1ドル投資するたび16ドルの便益が見込める」という。世間に発表された各種のデータをこまかく読み込んだ議論は説得力がある。
(NHK出版 2200円)
「ダークデータ」D・J・ハンド著
「ダークデータ」というとわざと虚偽をふくんだ「フェイクのデータ」みたいに見えるが、実はこれは「隠れて見えない」データのこと。
例えば、店舗で客が何を買ったかの購買データがある。しかし店の経営者が本当に知りたいのは「これから、誰が、何を、どのぐらい買うか」のデータだ。仮定や予測の結果、つまり「あったかもしれないデータ」は隠れて見えないのだ。
著者はイギリスの統計学者だが、それだけに統計数字が単なる現実の反映ではなく、「ものの見方」(尺度)によって変わる指標であることを種々の例を駆使して説明する。すると実は虚偽(フェイク)のデータは「ほんとうの状況を相手から隠そうとする」ダークデータだということがわかるのだ。
統計の世界は哲学に通じるということか。
(河出書房新社 2860円)