終わりなきパンデミック

公開日: 更新日:

「リニア中央新幹線をめぐって」山本義隆著

 変異型ウイルスの感染拡大にもかかわらず五輪開催を強行した菅内閣。これはもはや人災ではないのか。終わりなきパンデミックはどこへ?



 著者はいわずとしれた元東大全共闘委員長。科学史の分野では著作がいくつもあるが、パンデミック特集のブックガイドの冒頭にこの書名?

 実は副題が「原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」。そう、ポスト3・11とポスト2020の現在をふまえ、計画中のリニア中央新幹線建設を例として、現状の体たらくを鋭く批判するのだ。

 著者は科学の役割はかつては「啓蒙」だったが、いまは「批判」でなければならないという。原子力が典型例。その「平和利用」は科学による一般の啓蒙=教化だったが、3・11後の現在は批判以外にはありえない。電力を大量消費するリニア新幹線は、前世紀的な高度成長への覚めない夢にしがみつく劣化した日本政治の象徴。無意味な巨大公共プロジェクトに執着する暴走ぶりは、まさに感染抑制になんら寄与しない東京五輪強行の現状にも共通して見て取れるものだろう。

 技術ナショナリズムにとらわれた御用学者たちの「グレーター東京」計画を真っ向から批判する舌鋒は、鋭いと同時に、どこかたしなめるような口調もともなう。そこにこの国の未来を真に気づかう著者の心を見ることができよう。

(みすず書房 1980円)

「感染列島強靱化論」藤井聡、高野裕久著

 ともに京大教授の著者。ひとりは安倍内閣の参与として「国土強靱化計画」に深くかかわり、もうひとりは医師として都市環境工学にたずさわる。

 冒頭、大規模感染に対する日本の対応能力は「極めて低い水準であった」とし、最大の正念場は「今年の冬」だという。単にインフルエンザと新型コロナのダブル感染がこわいというだけではない。感染下で大災害が起こる危険性を指摘するのだ。コロナ収束前に「超巨大地震が発生してしまう確率は3割から5割」だという。そのとき、被災地の衛生環境は「最悪水準」になるのは火を見るよりも明らか。

 ではどうすればよいのか。全体の備えには長い時間がかかるはず。すぐにも議論し、すぐにも始めないと、と思わせる説得力だ。

(晶文社 1760円)

「最悪の予感」マイケル・ルイス著 中山宥訳

 元ソロモン・ブラザーズの営業担当としてバブル景気を満喫した著者。その後は映画にもなった「マネー・ボール」などのベストセラーを出す作家に転身した。本書はそんな時流に敏感なトレンドウオッチャーが書いた、アメリカ医療従事者のパンデミック戦記だ。

 実は以前からアメリカでは医師や免疫学者など一部専門家の間で感染症蔓延についての危惧が囁かれていた。さらにブッシュ大統領は100年前のスペイン風邪についての本を読み、自らパンデミック対策の旗を振った。ただし、9・11同時多発テロの直後にはこの懸念が“イラクは天然痘ウイルスを保有し、米国への攻撃材料にしようとしている”という疑念につながってしまう。

 今回のコロナ=「チャイナ・ウイルス」説にも通じるアメリカならではの怖い話だ。

(早川書房 2310円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  2. 2

    阪神・西勇輝いよいよ崖っぷち…ベテランの矜持すら見せられず大炎上に藤川監督は強権発動

  3. 3

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  4. 4

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  5. 5

    阪神・藤川監督が酔っぱらって口を衝いた打倒巨人「怪気炎」→掲載自粛要請で幻に

  1. 6

    巨人・小林誠司に“再婚相手”見つかった? 阿部監督が思い描く「田中将大復活」への青写真

  2. 7

    早実初等部が慶応幼稚舎に太刀打ちできない「伝統」以外の決定的な差

  3. 8

    「夢の超特急」計画の裏で住民困惑…愛知県春日井市で田んぼ・池・井戸が突然枯れた!

  4. 9

    フジテレビを救うのは経歴ピカピカの社外取締役ではなく“営業の猛者”と呼ばれる女性プロパーか?

  5. 10

    阪神からの戦力外通告「全内幕」…四方八方から《辞めた方が身のためや》と現役続行を反対された