「世界の不思議な街の空から」パイ インターナショナル編著
気球や飛行機が登場する以前、人間は飛ぶ鳥たちが見ている景色に憧れ、それを想像しては絵を描いたりした。空からの眺めに憧れるのは、それが神の視点だからだろうか。
翻って現代、神の視点はドローンの出現でぐっと身近になり、誰もが手にすることができるようになった。ドローンを使って身の回りの風景を空撮してみると、視点を変えるだけで慣れ親しんだ風景がまったく違う場所に見える時がある。
世界の街を空撮した本書を開いてみると、同じように、世界遺産に登録されているような有名な街も、空から眺めると印象ががらりと変わる。
例えば表紙にもなっているスペインのバルセロナ。中央を貫く大通りの先にそびえるのは、かのサグラダ・ファミリアだ。その「偉大なる混沌」ともいえる壮大な教会建築の美しさとはまた異なり、街中は碁盤の目のような整然とした美しさで、まるで集積回路をのぞき込んで見ているかのような錯覚に陥る。
アメリカ・アリゾナ州にある「サンシティ」も同じように幾何学模様のように整然とした街並みなのだが、空からだけの眺めでは一戸一戸の家々も同一規格で造られたかのように無個性に見え、味気ない。
こちらは不動産会社によって1959年に開発された高齢者限定のリタイアメント・コミュニティーだというが、なぜか人の営みが感じられない。
一方、イタリアの水の都ベネチアを空から見ると、聖堂のドームをのぞき、ほとんどの建物が赤茶色の屋根で統一されていることが分かる。湾曲する大運河を中心に、縦横に運河が張り巡らされ、120の小島が400の橋で結ばれているというが、密集した建物がひしめきあって、まるでひとつの大きな生き物のようだ。
ロシア連邦サハ共和国の工業都市ミールヌイを上空から見下ろすと、街の片隅に巨大な穴があいている。
直径1250メートルもある、まるで地底への入り口のようなその巨大な穴は、実は露天掘りで掘り下げられたダイヤモンド鉱山の跡。ロシアのダイヤモンド総産出量のおよそ99%をこの街が担ってきたという。
ちなみに巨大な穴の上空は、気流に吸い込まれる事故を防止するため、ヘリコプターなどの飛行が禁じられているそうで、写真もやや離れた場所から撮影されている。
他にも、高級リゾートとして開発中に業者の倒産でおとぎ話のお城のようなデザインの住宅500棟以上が放置されたままのトルコの「ブルジュ・アル・ババス」や、同じリゾートでもこちらは海に浮かぶ未来の都市のような人工島「パール・カタール」(カタール)、放射線状に広がるイスラエルの最初の農村共同体「ナハラル」、そして標高2500メートルほどの山の斜面に、下段の家の屋根が上段の家の庭や通路になっているテラス状の家屋が積み重なるイランの遊牧民の集落「サル・アガ・セイエド」など。世界58の街・村を上空から探訪。
誌上とはいえ、やはり知らない街を「訪ねる」のは楽しいものだ。
(パイ インターナショナル 2035円)