「オン・ザ・ロード:書物から見るカウンターカルチャーの系譜」山路和広監修 マシュー・セアドー執筆
1950年代のアメリカで、物欲主義や抑圧的な社会に言葉と行動で異議を唱えたジャック・ケルアック(1922~69年)をはじめとする作家たちが、社会に疑問や不満を持つ若者たちから絶大な支持を獲得していく。
新しい生き方を提唱したアメリカ文学史における反逆者であり、自由と至福を追い求めたアウトサイダーである彼らは、ビート・ジェネレーションと呼ばれる。
本書は、ビート・ジェネレーションに魅せられた古書店主の山路氏が、アメリカに通って買い付け、収集した稀覯本や関連資料などを紹介するビジュアルブック。
書名にもなっている「オン・ザ・ロード」は、いわばビート・ジェネレーションの聖典で、ビート・ジェネレーションという言葉の生みの親でもあるケルアックが、友人のニール・キャサディとアメリカ大陸を縦横に旅した体験をもとに書かれた自伝小説である。
果てしない道を車で走り抜け、ドラッグや安酒に彩られながら刹那に生きる若者たち。「どんなに落ちぶれても『どん底の至福』を導き出すその姿」が多くの読者の心を揺さぶったという。
ボブ・ディランが「僕の人生を変えた」と語る同書は、のちのヒッピーやカウンターカルチャーへとつながる源流となり、今なお、多くの若者たちを導く。
ケルアックは、12万5000語で構成される「オン・ザ・ロード」4部作をわずか21日間で執筆したといわれる。「最初の発想がベスト。頭に浮かんだことをそのまま書く」ことを理想として、タイプライターの用紙を取り替える時間を惜しむほどに思考の停止を嫌い、長いトレーシングペーパーをテープでつなぎ巻物状にした用紙に湧きあがる言葉をタイプしていった。改行もないその初稿は約36メートルにもなったという。
その生き方に強い影響を受けたキャサディとの関係、彼らを取り巻く女性関係、そして仏教や俳句との出合いなど。
作家と作品について解説するとともに、発行部数が少なく幻の一冊と言われる「オン・ザ・ロード」の初版本をはじめ、彼が47歳で人生を閉じるまでに残した作品の初版本を年代別に紹介する。
続いて、ビート・ジェネレーションの最年長で麻薬中毒者であり、妻殺し、ガンマニア、画家、そして小説家のウィリアム・バロウズ(1914~97年)の作品をはじめ、20世紀を代表する詩人アレン・ギンズバーグ(1926~97年)から日本との関係も深い詩人ゲーリー・スナイダー(1930~)、そしてオン・ザ・ロードに感化されたナナオサカキ(1923~2008年)や山尾三省(1938~2001年)ら日本の詩人たちの作品や彼らが設立したコミューンの機関紙「部族新聞」など1200点を網羅した貴重な資料でもある一冊。
第2次大戦後の物質主義へのアンチテーゼを唱えたビート・ジェネレーションたちの作品や生き方が、デジタル社会に突入した現代に、また新たな輝きを放つ。
(トゥーヴァージンズ 3850円)