「ゴンド・アート」TouchtheGOND編
インドに600以上いるといわれる先住民族のひとつ、パルダーン・ゴンドの画家たちが描いた民族画を収めた作品集。
作品のモチーフとなるのは、想像上の生き物を含めた動植物をはじめ、村の日常生活やその営みの中で使われている楽器や道具、そして人々が信じる自然のなかにすむ神々や民族に伝わる寓話など、彼らの暮らしと思想に密着している。
それらをテーマごとに、それぞれの画家から聞き取った作品にまつわるストーリーとともに紹介する。
「自然・生きもの」の章の冒頭を飾る「蜘蛛の糸」は、正方形の画面の中央に精緻な巣を作り獲物を待ち構える蜘蛛が美しく描かれる。その巣の周りを魚が泳いでいるのだが、なぜか違和感を感じさせない。
作者のマヤンク・シャーム氏によると「蜘蛛は大地の番人」だという。「体から無数に出す糸で土を閉じ込め、陸地が勝手に動き出したりしないようしっかりと見張っている」のだそうだ。
つまり巣に覆われている場所全てが蜘蛛に守られる広大な大陸であり、魚が泳いでいるのは大陸を囲む海ということであろうか。
「トンボの季節」(スクナンディ・ヴィヤム作)と題する作品は、1カ所から飛び立ったトンボが群れを成して空に向かって飛び、まるで大樹のようだ。
他にも、生きるために欠かせない大切な水を守る女神ジャルハリンマーターの化身である魚をモチーフにした作品(ラジェンドラ・シャーム作)をはじめ、クジャクやトラ、ネコ、ライオン、そしてヒンズー教で神聖な生き物としてあがめられる牛、象など、さまざまな動物が独特の色使い、筆遣いで描かれる。
何よりもその特徴は、動物や植物など描かれるものすべてに施された精緻な紋様だろう。
インド中央部マディヤ・プラデーシュ州近郊に暮らすパルダーン・ゴンドは、かつては神具であり楽器でもある「バーナー」を弾きながら民族の系譜や神話などを歌い、生計を立てていた。彼らは死者の魂を鎮める役割も果たし、村の語り部でもあり宗教的儀式の担い手でもある特殊な人たちだという。
神様とつながるその大切な楽器にまつわる言い伝えを描いた「バーナー」(ラジェンドラ・シャーム作)や、モフアの木の花で作る酒造りの様子などを描いた「日々の暮らし」をモチーフにした作品、そして創造神バラデーヴによる創世神話を描いた「陸のはじまり」(マヤンク・シャーム作)をはじめとする神話や寓話を絵にした「物語、祈り」の章まで21人の画家による84作品を網羅する。
驚くことに、ゴンド・アートは他の民族画のように長い歴史を持つ伝統的な絵画とは異なり、1980年代に見いだされた一人の若き画家の才能があってこそ生まれた絵だという。
ゆえにゴンド・アートには、ポップでモダンな雰囲気が備わり、民族画の枠を超えて世界中の美術ファンを魅了しているそうだ。
生きる力にあふれた絵のパワーに圧倒される、元気が出るアートブックだ。
(河出書房新社 3960円)