「いつでも君のそばにいる」リト@葉っぱ切り絵著
近所の公園で拾ってきた小さな葉っぱを舞台にしてシルエットでさまざまな世界を描き出す……SNSで人気の切り絵作家の作品集。
冒頭に収められた「バス、まだかな…?」と題された作品は、バス停を先頭に7匹のカエルが大きな葉っぱの傘を持って並んで待っている姿が描かれる。カエルたちは、大きさもまちまちで、中には待ちくたびれたのか、座っているカエルもいる。
カエルたちは、横にした葉っぱの中心を貫く葉脈の上に立つように配されており、つまり葉っぱの半分だけのわずかな面積にこれだけの風景が描かれていることになる。
「冬眠延長中」と題された作品では、葉っぱ全体を用いて中心の葉脈から下に冬眠から覚めたものの巣穴でお茶を飲みながらゆっくりとくつろぐクマのペア、その頭上には、つくしやら咲き始めた桜など、春が訪れた地上の景色が表現されている。
お気づきのように、作品に登場するのは多くが動物たちで、たまに登場する人間は脇役でしかない。
眠っている子ブタが見ている夢をクルクルと割り箸に巻き付けて子供たちのおやつにしてしまうバクのお母さんを描く「ゆめのわたがし屋さん」や、キリンやクジャクなどが足場になってチームメートのネズミの夢をかなえる「はじめてのダンクシュート」など。
葉っぱという天然素材の持つぬくもり、優しさにあふれるテーマ、そして驚くほどの技巧によって作り出される作品は、そこに描かれたワンシーンから次々と物語が広がり、見る者の心に優しさの明かりをともしてくれる。
作品の多くは、森と空を背景にして撮影されている。青空や白い雲、夕焼け、そして時には夜空が作品の魅力をさらに引き出す。
著者がアートに取り組むきっかけとなったのは、「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」と診断されたことだった。当時、ダメ社員の烙印を押されたサラリーマンだった氏は、異常な物忘れの多さや要領の悪さ、直したくても直らない自分のダメな部分がこの障害による先天的なものだったことを知る。
会社を辞め、どうせなら自分の得意なことを仕事にしたいと選んだのがアートだったという。
幼いころから、集中力だけは人一倍強く、細かい作業に何時間でも没頭できた。ボールペンイラストやスクラッチアートなどさまざまな試行錯誤を繰り返し、たどりついたのが葉っぱの切り絵だった。
「その葉っぱ、きれいだね!」という作品では、テントウムシを追いかけていた途中、イモムシの持つモミジの葉っぱを気に入ったカメレオンが描かれる。よく見ると真似っこが得意なカメレオンの体は、上半身がテントウムシ柄、そして下半身から尾にかけてモミジの連なりで構成されており、目を見張るような精緻さとデザイン性で魅せられる。
その技巧と、挫折を体験した著者ならではの思いから紡がれる葉っぱの上の物語。絵本のように手元に置いて何度も味わいたい。
(講談社 1430円)