「Hidden Planet」ベン・ロザリー著、菅野楽章訳、今福道夫監修
食物連鎖の頂点に立つヒトから目に見えない微生物まで、多様な生き物たちのすみかである地球は、それ自体がひとつの生命体ともいえる。
本書は、そんな地球で暮らす動物たちの人間の目には見えにくい「隠れた」関係や、能力、つながり、そして生態に注目して描かれた細密画集。
生き物たちの隠れた関係のひとつが、2種類以上の生き物が何らかの結びつきを持って一緒に生活をする共生だ。
共生には主に片利共生、相利共生、そして擬態を利用して他の鳥にヒナを育てさせる「托卵」で知られるカッコウなどの「寄生」の3つの種類がある。
ゾウなどの大きな動物の背中にとまり、その動物に追い払われた昆虫を捕まえて食べるミナミベニハチクイなどの鳥類のように、一方の生き物が得をして、もう一方は損も得もすることがない関係が「片利共生」だ。
対して、どちらの生き物も得をするのが「相利共生」。あの海中の人気者カクレクマノミとイソギンチャクの関係は、相利共生の完璧な例だという。
両者が、お互いにどのような恩恵を与え合っているのか解説。さらに触手の毒針で魚を刺して食べるイソギンチャクと共生するためにクマノミが進化の過程で編み出した方法や、オスからメスに性転換する不思議な生態についても紹介。
どの動物の絵も、そのフォルムはもちろん、鳥の羽の質感や、哺乳類の毛並みまで、まるでページを開いた途端に動き出すのではないかと思えるほどのリアルさだ。
続いて取り上げられるのは、一見つながりがなさそうな動物たちの間にある意外な「隠れた」家族関係。
アフリカや中東などに広く分布する草食の哺乳類ハイラックスは、大型のウサギほどの大きさしかないのだが、最も近い親戚はなんとゾウやマナティーだという。
著者が旅行先の南アフリカで出合った「ケープハイラックス」は、ずんぐりむっくりの見た目に反して、すばしっこく険しい岩山を動き回り驚いたそうだ。実はケープハイラックスの足裏の大きな肉球は、特別な分泌物でいつも湿っており、岩にくっつくことができるのだという。
他にも南半球で見られる飛べない鳥のグループ「走鳥類」や、変装が得意なタコなどのように隠れた能力を持つ生き物、カムフラージュが得意なウンピョウやカメレオン、捕食者から見えないところに隠れるのが得意なピグミーマーモセットやナマカフクラガエル、そしてライオンやフウチョウ(ゴクラクチョウ)のようにオスとメスで大きさや色、模様、時には行動まで大きく異なる「性的二型」の動物などなど。
大判のページに描かれたリアルで迫力ある動物たちと過ごす時間は、世の中の喧騒や理不尽をひととき忘れさせてくれる癒やしの時間となることだろう。
(化学同人 3850円)