「大正ガールズコレクション」石川桂子編著
令和も、はや4年、昭和はますます遠くなり、その前の大正(1912~26年)となると、もはやはるかかなたに感じられる。
一方で、関東大震災やスペイン風邪の流行など、現代と同じような出来事が起きており、そんな親近感からか、わずか15年しかなかった大正時代に、今、さまざまな分野で注目が集まりつつあるという。
そんな大正時代の「女学生」「令嬢」「モダンガール」などの若い女性にスポットライトを当て紹介するグラフィックブック。
大正時代の女学生とは、高等女学校に学ぶ12~17歳の少女たちのこと。高等女学校に進学できたのは、経済的にも恵まれた中流以上の家庭の子女に限られていたが、その数は大正2年の7万人弱(213校)から10年後には3倍以上の21万人超(529校)まで急増している。
各女学校の正門前で登校風景をとらえた写真をはじめ、山脇高等女学校や跡見女学校などの遠足風景や、淑徳高等女学校の割烹(調理実習と思われる)やお作法などの授業風景、さらに実業家や医師などの子女たちのポートレートまで。当時の雑誌に掲載された写真で女学生の日常を伝える。
中には、テニスのラケットを抱えたり、自転車に乗っていたり、自宅で撞球(ビリヤード)に興じる姿を撮影した写真もある。
また、通学途中の女学生を尾行してその姿を隠し撮りするルポ風の雑誌記事などもあり、見るからにやらせと思われるが、世間の女学生観がうかがえる。
他にも、嫁入りに有利かどうかで決まる入学先の選択基準や学費の詳細、「アイスクリーム」=「継母」(甘いようで冷たいから)や、「ギロチン」=「意地悪い試験官」などの女学生が使用していた隠語まで、女学生にまつわる世相や彼女らの実態が分かる新聞や雑誌記事も網羅する。
続いては雑誌に掲載された10代後半から20代前半の令嬢たちの写真が並ぶ。
公爵・徳川家達家の姉妹、京都の実業家の長男との婚約が整った仏具商・安田松慶氏の娘・久子さんなど、どれも写真館で撮影されたかのようなポートレートで、雑誌掲載時には写真と共に父親の職業やかつて日本にもあった爵位なども併記されていたといい、さながらお見合い写真のようである。
自家用車の前で撮影された写真や、避暑地での生活ぶりを伝える写真もあり、その財力までが伝わってくる。
そして大正といえば、モダンガール=モガは欠かせない。当時流行の最先端を走り、銀座を闊歩するモガや、そんなモガたちの装いを真似した令嬢たち、そして当時は珍しい女性運転手など、大正デモクラシーとともに増えた職業婦人たちの働く姿なども取り上げる。
進取の気性に富み、つかの間の自由を謳歌する「はいからさん」たちの姿に、祖母や曽祖母の生きた時代が身近に感じられるに違いない。
(河出書房新社 1991円)