「GE帝国盛衰史」トーマス・グリタ+テッド・マン著 御立英史訳/ダイヤモンド社
20世紀最高の経営者と称賛されるのが、ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOを20年務めたジャック・ウェルチだ。家電製品から航空機エンジン、原発まで、GEは世界最大のコングロマリットだった。その巨大船団を率いて、ウェルチは、80年代から90年代にかけて、とてつもない成長を会社にもたらした。
本書は、そのウェルチから01年にCEOを引き継ぎ、16年にわたってGEのトップに君臨したジェフリー・イメルトの奮闘記だ。だから普通の社史とは異なり、本書の主人公は、人だ。イメルトとその周りの人たちが、何を考え、どう行動したのかを詳細につづっているので、まるでドラマを見ているような臨場感がある。イメルトは、就任直後にウェルチの輝かしい業績が砂上の楼閣であることに気付く。アメリカの企業会計というのはとても不思議で、会社の利益を自由に操作できてしまうようになっている。その仕組みを活用して、ウェルチの業績が大きく水増しされていたのだ。
神格化されたウェルチには誰も逆らえない。だからトップダウンで与えられた業績目標を未達にしたら、部下たちの未来はない。だから、数字をつくってしまうのだ。
イメルトは、何とか立て直そうと奮闘するが、業績はちっとも上向かない。それどころか、イメルトの退任後、GEはニューヨークダウの構成銘柄から外され、格付けも落としてしまう。そしてイメルト自身も、数字の操作に手を染める。そうは書いてないのだが、GEの転落は、突き詰めるとウェルチが広めた「アメリカ型経営」が致命的に間違っていたからだと思う。CEOへの権限集中、事業の選択と集中、四半期決算、業績至上主義、厳しいノルマ、経営トップの巨額報酬、そういったものが積み重なって、会社があらぬ方向に走っていってしまい、結局、被害を受けるのは第一線で一生懸命働いた従業員になるのだ。
実は、GEと東芝は古くから関係があり、総合家電という業種でも同じだ。そして、経営トップの暴走で、会社が大きく傾いたという点でも極めて似ている。だから本書で描かれた米国型経営の問題は、けっして他人事ではない。経営理念を考えさせる好著だ。 ★★★(選者・森永卓郎)