「阪神・四番の条件 タイガースはなぜ優勝できないのか」掛布雅之著/幻冬舎新書
「4代目ミスタータイガース」として知られる掛布雅之氏による本だ。さまざまなデータが出ているが、これは本書の執筆を担当したライター氏の豊富な知識によるものだろう(笑)。とはいっても、1985年の阪神日本一の大貢献者である掛布氏が著者であるこの本は、日本の野球をいかに楽しむか、という示唆に富んでいる。
「4番打者」というものがいかにあるべきか、といった論が次々と展開され、ピッチャーである江川卓氏や江夏豊氏がいかにすごかったか、といったことまで網羅されている。1985年の阪神タイガースの唯一の日本一を知り、そしてあれを甘美なる思い出としている人にとっては実にうれしい本である。
掛布氏が選ぶベストナインなども含め、さまざまなデータが掲載されており、「誰が最強の一塁手か?」などといった飲み屋談議的なことも多数書かれており野球好きにとってはこれは楽しい本だ。
正直、掛布氏の本を読む日が来るとは思わなかったし、「ミスタータイガース」と呼ばれたにしてはまだ阪神の一軍の監督になっていないだけに同氏の分析は甘いのかと思ったがそうではないことがわかる。本書は2021年12月に発刊された本だが、以下の分析には舌を巻いた。
〈根尾はタイプ的に40本塁打を狙う打者ではない。自分がどういう役割においてプロで生きていくか、方向性を早く自覚して決めなくてはならないのだ〉
今シーズン途中から中日で投手登録に変更した大阪桐蔭出身の根尾昂について、こう述べていたのである。この部分については掛布氏は「中途半端に根尾に全部期待するな。首脳陣はさっさと彼の行く道を決めろ」と言っているように感じられる。結果的に中日の立浪和義監督は根尾をピッチャーにしたが、このことを掛布氏は示唆していたのだ。
本書は、阪神が優勝した1985年のことを深掘りするほか、なぜ巨人があそこまで勝利にこだわるのか、などに加え、阪神のスター・佐藤輝明についても一章を割いてそのポテンシャルについて述べるなど野球が好きな人にとっては実に素晴らしい本になっている。
そして、蛇足ではあるものの、掛布氏のこだわりを感じるのは、本書で自分よりも年上の元選手には「さん」をつけ、年下と外国人は呼び捨てな点だ。同氏は試合の解説をする時は選手に「君」付けをする。さすがに本では「君」はつけないが、年上には「さん」をつける律義さを感じた。 ★★半(選者・中川淳一郎)