「ダークナンバー」長沢樹著
近年では、サイバー犯罪と呼ばれるパソコンなどのデジタルの周りに関連する事件が増え、犯罪も複雑化・多様化の様相を呈している。そうした現代犯罪に対応すべく2009年に警視庁に設置されたのが、捜査支援分析センター(通称SSBC)だ。本書は、この新設部署の女性係長を主人公とした警察小説だ。
【あらすじ】渡瀬敦子はSSBC分析捜査三係係長。三係は犯罪科学分析と熟練の現場捜査員を組み合わせ、場合によっては単独捜査も可能な実動部隊だ。
渡瀬は大学在学中に国家公務員Ⅱ種の資格を取り警察庁入庁した準キャリア。警察大学校卒業後、地方県警の所轄署勤務を経験。特別研修によってFBIでプロファイリングを学び、帰国後科警研で研究職に就いたが、わずか1年で新設のSSBCへの異動を命じられる。
渡瀬は東京西部で起きている連続放火事件のプロファイリングに当たるが、予想を外してしまう。そんな渡瀬に近づいてきたのは、東都放送外信部海外素材著作権担当デスクの土方玲衣。彼女は渡瀬の中学時代のクラスメートで、将来は放送局初の女性社長になるという野望を持つ敏腕記者。
土方は渡瀬をメインにした番組を構想していたが、放火事件と埼玉で起きている連続ひったくり事件との共通項を見いだし、渡瀬と協力して事件の真相を追っていくことに。
【読みどころ】表の主人公は渡瀬だが、土方はもうひとりの主人公で、警察組織と報道機関の連携ぶりが本書の読みどころのひとつになっている。もうひとつの読みどころは、渡瀬敦子の生い立ちだ。なぜ彼女が警察官を目指すようになったのか。それに土方はどう関わっているのか。いくつものファクターが折り重なりながら重厚な物語に仕立て上げられている。 〈石〉
(早川書房 1056円)