「アウトバーン」深町秋生著

公開日: 更新日:

 暴力団関係の事案を取り扱う「マル暴」の悪徳刑事といえば、暴力団に内通して情報を流したり、麻薬や拳銃を隠匿して私腹を肥やすといったイメージが一般的だ。しかし、本書の主人公は同じ悪徳刑事といっても、一味も二味も違う、極めてユニークなキャラクターだ。

【あらすじ】八神瑛子は警視庁上野署組織犯罪対策課の警部補。剣道3段の腕前で、金に困っている同僚に金を貸して味方につけ、その美貌とともに彼女を女神のように称える署員も多い。

 外部にも多くの協力者を抱え、裏社会の情報にもたけ、方面本部賞、署長賞は数知れず、警視総監賞を7回という活躍だが、事件解決のためなら手段を選ばず平気で裏社会の人間と手を組む。

 以前は品行方正の警官という評判だったが、3年前に雑誌記者の夫の遺体が奥多摩で発見される。瑛子は自殺ではないと訴えるが捜査1課は自殺と断定。心労のため流産し夫と子どもを一遍に失う。以来、瑛子は自分が属する組織に対して不信と憎悪を抱いていた。

 不忍池付近で女子大生の向谷香澄が刃物で刺殺される。被害者は広域指定暴力団印旛会系千波組の組長の娘だった。続いて浅草橋でエステ店で働く若い中国人女性がやはりナイフで刺殺された。同一犯人か? 

 瑛子は、千波組の若頭から組長の娘の犯人を逮捕前に知らせろと頼まれると同時に、福建マフィアの大幹部から殺された中国人女性と関連するある人物の捜索を命じられる。しかも瑛子の動向を探るべく署長が放った監視の下で……。

【読みどころ】事件が進むうちに、悪徳刑事という仮面の下にある瑛子の真実が見えてくる。スーパーウーマン八神瑛子の大胆不敵な活躍がカタルシスをもたらす、シリーズ第1作。 <石>

(幻冬舎 586円)

【連載】文庫で読む 警察小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…