「凍原」桜木紫乃著
著者の直木賞受賞作「ホテルローヤル」は、目の前に釧路湿原が広がるラブホテルを舞台にした連作短編集で、映画化もされた。
本書のサブタイトルは「北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂」で、やはり釧路湿原が重要な舞台となっている。
【あらすじ】松崎比呂は高校を卒業してすぐに警察学校に入り、26歳で巡査長、2度目の試験で巡査部長に合格した。札幌北署の刑事課に配属され、男性刑事からのやっかみやねたみを受けたが、「女はいいな」という言葉は挨拶代わりと適当にかわし、体力のないところは小回りと機転で切り抜けてきた。
刑事になってからはほとんど故郷の釧路に戻ることはなかったが、17年前、弟の貢が釧路湿原で行方不明となった。以来、一家の絆は壊れ、比呂の警察学校合格とともに両親は離婚、比呂は母方の姓を名乗ることになった。
そこへ、釧路湿原で成人男性の遺体が発見されたとの報告が入った。年齢は30~40歳、のどに絞殺痕があり、身元を示すものはない。ただ、骨格は日本人なのに両目とも見事なブルーだった。捜査本部が開かれ、比呂はベテラン刑事の片桐と組むことになった。片桐は、弟の事件の捜査をした刑事で、その責任を今でも抱えている。2人は、犠牲者の青い目を手がかりに捜査を進めていくが、そこには敗戦時の樺太から引き揚げてきたある女性が大きく関わっていたことがわかってくる。
【読みどころ】物語は、六十数年前の樺太・北海道と現在の釧路湿原とを往還しながら徐々に歴史の闇に翻弄された人々の姿をあぶり出していく。さらには、17年前の失踪事件も絡んでくる……。
幾層もの謎が折り重なりながら雄渾な物語が展開する、著者唯一の長編ミステリー。 <石>
(小学館 681円)