「ヒトイチ 内部告発」濱嘉之著
元警察官の著者は、警視庁入庁後、警備部警備第1課、公安部公安総務課、警察庁警備局警備企画課、内閣官房内閣情報調査室、生活安全部少年事件課に勤務。警視総監賞、警察庁警備局長賞など受賞多数という赫々たる経歴。公安部時代に遭遇したオウム真理教事件をもとに「カルマ真仙教事件」を著している。
本書は警務部人事1課が舞台だが、内部事情に精通しているだけに、他の追随を許さないリアリティーが醸し出されている。
【あらすじ】榎本博史は警視庁警務部人事1課、通称ヒトイチの監察係長。係長になって4年。34歳にして監察係長を務める榎本は、ノンキャリアのエリートと目されていた。監察はヒトイチの中で警察組織内の不祥事や非行事案を摘発し、処理する部署だ。
今回、新宿署の組対(組織犯罪対策部)課長代理が反社会勢力と不適切な関係にあるとの内部告発がもたらされた。くだんの課長代理は55歳の三田村警部で、元捜査4課のマル暴担当で、新宿に三田村あり、という言葉があるほど、歌舞伎町の犯罪地図に通じており反社会勢力にも睨みが利く存在だ。部下からの人望も厚く気前の良さもあって慕われていた。
榎本らは早速三田村の預貯金高を調べると、隠し口座も含めて8000万円を超えていた。容疑は濃厚だ。榎本は三田村の行確(行動確認)を進めながら、彼を丸裸にしていく。
【読みどころ】ある情報漏洩事件では、捜査2課、公安、組対4課、監察が複雑に絡み合いながら警察内部の組織の複雑さをのぞかせていく。また、かつて慕っていた人間の取り調べをしなければならない心の葛藤など、現場経験あってこその細密な描き方によって、監察という仕事の隠れた面を浮かび上がらせる。 <石>
(講談社 770円)