どうするどうなる自動車産業
「クルマの未来で日本はどう戦うのか?」島下泰久著
検査データ偽装問題や電動化対応の遅れで揺れる自動車業界。大丈夫か自動車ニッポン?
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「クルマの未来で日本はどう戦うのか?」島下泰久著
かつて日本製の自動車は世界一の品質と売れ行きで世界に轟いた。しかし、いまや時代はEV(電動車)にシフト。車を造ったこともないテスラが一躍大企業に成り上がり、中国は製造面でも昇り竜の勢い。上海モーターショーで中国と日本のブースは「残酷なほどの対比」だったと本書も認める。コンセプトからデザインまで中国勢のクルマだけが「取材して心が浮き立った」というのだ。
しかし、欧州の高級車勢も負けてない。12気筒エンジンで富裕層に人気のベントレーは2030年には全車種をBEV(バッテリー電動車)だけにすると宣言。ロールスロイスも同水準の対応を明らかにした。著者は世界の動きをふまえ、今後はプレミアム車と日本の軽を含む小型シティーコミューターの両面でBEV化が進むだろうとみる。
日本でも昨年、中国のBYDが上陸し、いま長澤まさみの出るテレビCMを盛んに展開しているが、むしろ中国メーカーの真の狙いは日本市場ではなく、日本車が圧倒的なシェアを誇るアジア市場全体を我がものとすることにあるのだ。
著者は、かつてベストセラーを連発した徳大寺有恒「間違いだらけのクルマ選び」シリーズを共著者として引き継いだ自動車ジャーナリストだ。 (星海社 1375円)
「トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男」児玉博著
「トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男」児玉博著
トヨタ関連本は数あれど本書は自動車に興味のない読者まで引きつけてベストセラーになったノンフィクションだ。
主人公は服部悦雄。戦時中に中国・満州で生まれ、27歳まで中国で過ごす。文化大革命当時は下放(農村での強制労働)まで経験したという。そんな男が1970年、大阪万博で沸く日本に帰国し、トヨタ自動車販売に入社。以来、低迷していた同社の中国市場を躍進させ、トヨタを世界最大にした豪腕・奥田碩元会長を支えた。さらに現会長・豊田章男を「社長にした」男でもあるというのだから企業人なら誰もが興味を持つだろう。
いまや世界企業となった中国・吉利汽車の創業者・李書福の冒頭の出世譚も面白い。小学校すらまともに出てない李は19歳で事業を始め、文具から家電まで売れそうなものを手当たり次第に作っては売った。やがてトヨタ車のコピー商品を造った李は紹介もなしに服部を訪ね、エンジンを売ってくれと談判。折から天津自動車相手に問題をかかえていたトヨタは李の話に乗る。実は吉利は浙江省の企業。その地元で共産党の書記となったのが習近平だったのだ。
典型的日本企業のトヨタと独裁国家・中国。両者をめぐる歴史と人間の壮大なドラマが描かれる。 (文藝春秋 1870円)
「わたしと日産 巨大自動車産業の光と影」西川廣人著
「わたしと日産 巨大自動車産業の光と影」西川廣人著
自動車業界に激震を走らせた「ゴーン事件」。老舗の日本企業に乗り込んで改革を指揮し、希代の名経営者と仰がれながら一転、企業を私物化したと告発され、勾留中にスパイ大作戦ばりの奇策で脱出逃亡した。
本書はゴーンの元で改革を率い、後継として日産社長を務めた著者の回想。事件の真相が暴露かと期待されるが、本書はそれには応えない。自分は知らなかった、ゴーンの取り巻きのしわざと否定するだけだ。
むしろ本書は、典型的日本企業で傍流にあった人材が、海外業務に長じたことで社内で盛り返してゆく“サラリーマン人生すごろく”として価値があるだろう。
いまや各業界とも老舗企業に外資が入り、日本経済の少なからぬ部分がインバウンド観光業にすがっている。30年で一変した日本社会の動きを背景に読むと読後感が一変しそうだ。 (講談社 1980円)