強欲の経済
「武器化する経済」ヘンリー・ファレル、アブラハム・ニューマン著 野中香方子訳
格差社会から大国の覇権争いまで、現代の資本経済は、血も涙もない貪欲さをむき出しにする。
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「武器化する経済」ヘンリー・ファレル、アブラハム・ニューマン著 野中香方子訳
中国がのし上がり、大国化してきても、アメリカの優位は変わらない。世界経済のプラットフォームになるネットの中枢をアメリカが押さえているからだ。
ネットは場所を選ばないが、情報を吸い上げて保存するクラウドなどの情報基盤はアメリカの手の中にある。
本書は「地経学」を提唱するアメリカの国際関係の専門家によるグローバル世界論。地政学は地理的要因が国際関係に与える影響を、外交や軍事力などを複合的な視点でとらえるが、本書は経済と地理を主軸とする観点で国際的な覇権争いを読み解こうとする。
「グローバルな金融と情報のネットワークは地球上から国境をなくす」などといわれたのは昔の話。アメリカは衰えたとはいえ依然として両方の根幹を押さえている。GAFAMと呼ばれる現代のガリバー企業は、すべて米国に本社があるのだ。
副題「アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか」がすべてを物語る。
相手国の経済の生命線を握ることでコントロールする地経学的なやり方だが、中国や北朝鮮のような権威主義国は経済的な打撃を政治が抑えつけてしまうため、対西側陣営よりも地経学の効果が弱いという解説も有用。
(日経BP 2750円)
「無能より邪悪であれ」マックス・チャフキン著 永峯涼訳
「無能より邪悪であれ」マックス・チャフキン著 永峯涼訳
IT業界はリベラルで米民主党寄りといわれたのは昔の話。いまやIT業界のビリオネアたちはトランプ支持を続々表明し、高額の献金までしている。その代表格が本書に登場するピーター・ティール。ペイパルの創業で成功を収め、その後はフェイスブックやグーグルその他が小さなスタートアップ企業だった時期に巨額の出資元となって隠然たる影響力を築いた。
フェイスブック(現メタ)のM・ザッカーバーグなどはTシャツにジーンズという外見とは裏腹に、保守派の評論家やキャスターらと差し向かいで談合し、自社のSNSで右翼のフェイク投稿などを「表現の自由」を盾に規制しないと決定。トランプのアカウントを凍結したツイッターも、ティールに近いイーロン・マスクが買収し、「X」に衣替えしてトランプを再び迎えてしまった。
そんな反動的な風潮がどのように生まれ育ったのか。本書は強欲経済の陰の大立者ティールの半生を描いて余すところがない。「シリコンバレーをつくった男」という副題は偽りなし。
(楓書店 1980円)
「現代アメリカ経済論」大橋陽、中本悟編
「現代アメリカ経済論」大橋陽、中本悟編
かつて「独占」はマル経(マルクス経済学)の得意なコトバと見られ、近経(近代経済学)は忌み嫌ったもの。しかし新自由主義と格差社会の急拡大を経験した現在では誰もが「独占」を問題視する。資本主義擁護の牙城の米議会でさえ、ネット系大企業の独占は放置できないと法制化を急ぐのだ。本書はそんなアメリカ経済における独占の実情を分野ごとに論じる。
たとえば、1980年代に強かった日本のハイテク産業が米国に逆転されたのは、日本的ケイレツ企業の垂直統合でなく、利の薄い末端部品を途上国に国際分業し、システム構築の要となる採算性の高い要素技術に集中する産業構造のリストラ化に成功したから。一見自由競争のようでいて製造業では技術プラットフォームの独占がカギになっているのだ。これがいわゆるGAFAM業界になるとユーザーの「検索」をめぐってグーグルとアマゾンなど異業種の企業が競争する取引プラットフォームの独占の争いに変化する。
農業・食品加工や小売、軍需産業、金融など多分野にわたって独占の意味を問う役立つ学術書だ。
(日本評論社 2860円)