新しい冷戦と日本
「インド太平洋地経学と米中覇権競争」寺田貴編著
米中間で緊張高まる「新しい冷戦」。挟まれた日本はどうするか。
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「インド太平洋地経学と米中覇権競争」寺田貴編著
本書は「地経学」という新しいアプローチによる国際関係論集。地政学は地理的関係を念頭にした政治・外交アプローチだが、地経学は経済活動の観点が大きくなる。たとえば中国の「一帯一路」は表向きは通商路でも、実態は通商関係の確保による覇権の確保戦略のこと。それによって経済は「武器化」されるのだ。
近ごろアメリカが口にする「自由で開かれたインド太平洋」は、中国の覇権戦略に対抗する自由主義・資本主義側の概念。権威的な国家主義の介入を拒む自由な通商の確保こそ命綱になるわけだが、中国は昔から他国への「地経学的な強制」が得意なのだと本書は指摘する。
それに対して日本は、歴史的にはいち早く欧米諸国と並んで、アジアで唯一、先発の工業国となった。要するに「進んだ」欧米と「遅れた」第三世界の両方の気持ちがわかる立場だ。
それを踏まえた上で、混沌とする国際情勢のもと、独自の外交と安全保障の立場を築くためにはどうすべきなのか。執筆陣のなかに軍事・安全保障関係の筆者がいないのは最近のトレンドでは珍しい。軍備拡張論に頼りがちな他の論集に比して、経済をコマとして動かす知恵が日本には求められているのだ。 (彩流社 2530円)
「中国の大戦略」ラッシュ・ドーシ著、村井浩紀訳
「中国の大戦略」ラッシュ・ドーシ著、村井浩紀訳
中国の勢いはめざましい。経済成長もだが、何より政治的野心だ。習近平が国家主席になったのは2013年だが、16年の英EU離脱と米トランプ政権の誕生は、世界最強の民主主義国家がみずから築いた国際秩序から撤退し、自国内の統治すら苦闘する現実を中国に意識させ、習の野心に火をつけたのだ。
中国はいまや「20世紀を形づくったアメリカのように21世紀を形づくろうと準備」しているのだ、という著者は米バイデン政権の国家安全保障会議で中国・台湾を担当する専門家。副題の「覇権奪取へのロング・ゲーム」は米国に取って代わろうとする中国の野心をズバリ言い当てている。
指導者の演説をはじめ国外向け文書、中国メディアの報道、省庁や軍の刊行物に専門家の分析を加えて、鄧小平、江沢民、胡錦濤、そして習へとどう展開してきたかを読み解く。著者は巻末の補遺で習政権になって情報収集がやりにくくなったという。秘密主義が徹底した近年の傾向を見ただけでも中国の野心の底知れなさがうかがわれる。 (日本経済新聞出版 4400円)
「経済安全保障と技術優位」鈴木一人、西脇修編著
「経済安全保障と技術優位」鈴木一人、西脇修編著
経済安保とは、貿易取引や相互投資など経済上の互恵関係を国際政治・軍事上の安定化の要因に組み込むこと。グローバル化はこの線で過去30年以上にわたって急激に発展したが、いま中国の存在感が圧倒的になったことでデカップリング(米中切り離し)が主流となり、技術覇権が重要になった。習近平政権が推進する「中国製造2025」などは、これまで先端技術を西側に依存してきた中国が情報技術やロボット、宇宙開発などで「強国」を目指す野心の象徴だ。
そのためには独創的なイノベーションが必要だが、権威主義国家でそれが可能なのか。
大学のほか民間のシンクタンク研究員らが会した本書の論文によると、胡錦濤政権以来の「軍民融合」政策が国防科学技術の「自主創新」を図るが、ゼロベースからの「自力更生」には限界があるという。
最近話題の日本のベテラン技術者が高額報酬で中国へ、というケースなどは、このへんにも直接、間接に関わっているに違いないだろう。 (勁草書房 3520円)