ニッポンの安全保障

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「安全保障の戦後政治史」塩田潮著

 武器輸出三原則を踏みにじって戦闘機の輸出を進める政府自民党と財界。果たして日本の安全保障は?



「安全保障の戦後政治史」塩田潮著

 そもそも日本の安全保障はどんな道を歩んできたのか。「防衛政策決定の内幕」という副題を持つ本書は、政治ノンフィクションのベテランとして知られた著者が長年取り組んだ安全保障・防衛問題の最新刊だ。

 冒頭の問題提起は一昨年の岸田首相が「歴史的転換」と自画自賛した「安保三文書改定」問題。その内幕を小野寺五典元防衛相ほかに直接取材しつつ、戦後の吉田茂内閣にまでさかのぼって日本の防衛政策の歴史を広く、深く見渡してゆく。

 転機のひとつは1957年、岸信介内閣で決定された「国防の基本方針」。この3年前に防衛庁と自衛隊が創設され、国連への加盟も実現していた。続いて60年安保改定、佐藤栄作内閣での「武器輸出三原則」、三木武夫政権での防衛計画大綱の策定……。本書は安倍・岸田政権の現在までにいたる歴史の表と裏をたどり、政策決定の攻防の政治史を丁寧に描く。

 著者の手法は歴史の現場の臨場感を重んじるニュージャーナリズムのスタイル。現役航空幕僚長の解任まで発展した「田母神論文」事件の裏面を石破茂に取材するなど、厚みのある裏付けがいい。

(東洋経済新報社 3080円)

「日本の『これから』の戦争を考える」関口高史著

「日本の『これから』の戦争を考える」関口高史著

 陸自から防衛大学校で教官をつとめた著者。いわば軍人出身の戦略家として理論と実践を統合する試みが本書。

 理論編では、戦争を国際関係の無秩序の結果とみるリアリズムと国際協調を重視するリベラリズムの違いを説明。著者は前者の立場をとる。

 実践編では旧日本軍のガダルカナルの戦闘と英フォークランド戦争を例に、日本軍内部の連携の欠如を指摘。フォークランドの事例でも英軍の強みと弱さをわかりやすく解説し、島しょ防衛でも条件の異なる日本への教訓を導く。

 9条で戦力を放棄した日本国憲法を「戦争思想・哲学の不在」とさりげなく評し、憲法改正こそ安全保障の要との主張を目立たずに披露している。やはり自衛隊関係者にとっては悲願なのだ。

(作品社 2640円)

「日本人のための安全保障入門」兼原信克著

「日本人のための安全保障入門」兼原信克著

 外務省の元北米局日米安保条約課長の著者。安倍政権では内閣官房副長官補と国家安全保障局次長を兼務し、日本の安全保障の最前線にいた。

 本書は吉田茂政権下で始まった「日米同盟」の歩みを概説。中曽根政権時代に「西側の一員」を明言して「安保タダ乗り国家」の非難を返上する動きが本格化した。宮沢、小渕内閣がPKO協力法、周辺事態法を整備、同時多発テロに遭遇した小泉内閣がテロ対策特別措置法で海上自衛隊を海外派遣する。「世界は、突然インド洋に現れた日本艦隊に驚きました。日本艦隊の規模は米艦隊に次ぐものでした」と誇らしげに記す。

 東大卒の外務官僚だった著者は、学生から「軍事的リテラシーを奪って社会に送り出し続けた最高学府の責任は重い」と言う。官民協力を超え、産官学に自衛隊が加わった「産官学自」の協力体制こそが「当然の安全保障科学技術政策の姿」だとしている。次期戦闘機の輸出解禁などは当たり前という発想の根拠だ。

(日本経済新聞出版 2420円)

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