娯楽映画の巨匠たち
「映画監督放浪記」関本郁夫著、伊藤彰彦、塚田泉編
コロナ明けから映画界では日本映画が好調。その陰には昭和の職人監督たちが築いた歴史がある。
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「映画監督放浪記」関本郁夫著、伊藤彰彦、塚田泉編
昭和の映画監督は世代によって明暗が分かれた。
戦中世代(1942年生まれ)の著者は東映任侠映画の全盛期に助監督についたものの、自分が一本立ちするころは映画が斜陽化。「極道の妻たち」シリーズでヒット監督の座を確立しても宣伝マンに「Vシネマに毛の生えたようなもの」と言われる始末だったという。それだけに反骨精神は人一倍だ。
師とあおぐ加藤泰、小沢茂弘の両監督もクセが強い。特に映画「博徒」で東映を時代劇からヤクザ映画に大転換させた功労者にもかかわらず、会社と仲たがいして不遇の後半生を送った小沢監督への思い入れは本書のインタビューからもにじみ出る。
本人も大工の息子に生まれて工業高校卒。周囲の新人監督はいずれも東大や京大卒のエリートばかり。一本立ちしてからも斜陽の時代に「仁義なき戦い」シリーズの併映作やピンク映画、さらにテレビ映画でも時代劇からお色気アクションまで何でもござれ。不遇の現場でも「監督はやはり撮ってなんぼの職業」と明るい。人気作家・山村美紗の娘・山村紅葉をコメディエンヌとして開眼させた小さなエピソードなども面白い。
書名にたがわぬ、豪快にして繊細な昭和の映画監督一代記だ。 (小学館スクウェア 4950円)
「中島貞夫監督映画 人生60年を語る」中島貞夫、大森俊次著
「中島貞夫監督映画 人生60年を語る」中島貞夫、大森俊次著
東映の実録ヤクザ映画を故・深作欣二と並んで多数監督したのが中島貞夫。昨年6月に亡くなったが、故人と親しかったスケッチ・エッセイストが生前に聞いたさまざまな話をエピソードごとにスケッチ入りでまとめたショートエッセー集が本書だ。
神風特別攻撃隊の若い特攻兵士たちを描く「あゝ同期の桜」では、反戦の志を秘める監督と特攻を散華と美化するスター・鶴田浩二が撮影現場で対立し、以後、長く不仲が続いたという。千葉真一と東映同期入社という意外な縁も披露され、娯楽映画の職人監督の秘めたる反骨がよく伝わる。
雑誌「ユリイカ」の追悼特集号も併読するといっそう興味深い。 (かもがわ出版 2200円)
「井上梅次 創る心」一般財団法人、井上・月丘映画財団著
「井上梅次 創る心」一般財団法人、井上・月丘映画財団著
映画全盛期の最も達者な天才的職人監督といえばこの人。新東宝から日活に移ると石原裕次郎や赤木圭一郎ら新人をたちまちスターに育て、「嵐を呼ぶ男」ほかで大ヒットを飛ばし、フリーになってからは東宝でも大映でもお呼びのかかる超売れっ子。浅丘ルリ子、雪村いづみ、白木マリら女優も数々育てたが、大女優・月丘夢路とのオシドリ夫婦ぶりは映画界でも憧れの的だった。
さらに香港の映画界からも三顧の礼で迎えられ、「嵐を呼ぶ男」の脚本をそのまま使った完璧なリメーク版まで製作している。
そんな凄腕の娯楽派巨匠の仕事と人生が、多数のスチールや現場のスナップショットを交えて紹介される。映画界華やかなりしころの空気が新鮮によみがえる。 (講談社エディトリアル 2970円)