「世界を支配するアリの生存戦略」砂村栄力著/文藝春秋(選者:佐藤優)

公開日: 更新日:

善良な働き者という好印象が崩れた

「世界を支配するアリの生存戦略」砂村栄力著/文藝春秋

 本書を読んで、アリは善良な働き者であるという好意的印象が崩れた。アリ(特に外来のヒアリやアルゼンチンアリ)は、わが国周辺の独裁国家に匹敵する脅威だ。

 特に怖いのがこのアリだ。

<アルゼンチンアリは名前から想像される通り南米原産のアリで、数百、数千キロメートル規模に及ぶ世界最大のスーパーコロニーを作る社会性昆虫として知られる。(中略)実はアルゼンチンアリはすでに日本にも侵入しており、2000年頃から一部地域で被害が顕在化して侵入地域の住民や行政機関、専門家を悩ませてきた。本種は毒針こそないものの、異常なまでの増殖力を持ち、帯状の行列で住宅まわりを包囲し、毎日のように屋内に侵入して食品に群がったり、寝ている人の体を這って安眠を妨害したり、電気製品に入り込んで不具合を起こしたりする。それはもう、被害地の住民がノイローゼになるぐらいに>

 別の外来種ヒアリ(人を刺す)を完全駆除することは難しくなる可能性もある。
<ある程度生息範囲が広まってしまうと根絶(完全駆除)が難しくなるとともに、防除にかかる費用も膨れ上がっていく。とくに、根絶できなかった場合は被害を抑えるために恒久的に費用が発生することになる>

 外来アリとの戦いが日本国家にとっての重要な課題になりつつある。

<アリは身内(巣の仲間)には優しいが、他の生物には冷酷無慈悲な生き物なのだ。そして外来アリは、働き者ではあるのだが、成功しすぎて大繁殖し、人間を含めた他の生物に対しこれでもかと容赦なく害をなす、困った働き者なのである>

 日本を取り巻く中国、ロシア、北朝鮮、韓国などの国家も「身内(自国民)」には優しいが、潜在敵国や非友好国に対しては冷酷無慈悲なところがある。アリの研究を通じて、帝国主義的に再編される国際関係のイメージをつかむことがこれから重要になってくる。

 ヒトやアリなど群れを作る動物は、紛争を好むようなプログラミングがあらかじめ組み込まれているのかもしれない。だから紛争を完全になくすのではなく、一定の枠組みの中で抑えることが重要になる。 ★★★

(2024年8月23日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  3. 3

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  4. 4

    “最強の新弟子”旭富士に歴代最速スピード出世の期待…「関取までは無敗で行ける」の見立てまで

  5. 5

    “文春砲”で不倫バレ柳裕也の中日残留に飛び交う憶測…巨人はソフトB有原まで逃しFA戦線いきなり2敗

  1. 6

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  2. 7

    物価高放置のバラマキ経済対策に「消費不況の恐れ」と専門家警鐘…「高すぎてコメ買えない」が暗示するもの

  3. 8

    福島市長選で与野党相乗り現職が大差で落選…「既成政党NO」の地殻変動なのか

  4. 9

    Snow Manライブで"全裸"ファンの怪情報も…他グループにも出没する下着や水着"珍客"は犯罪じゃないの?

  5. 10

    今の渋野日向子にはゴルフを遮断し、クラブを持たない休息が必要です