エロスとタナトス…三島文学に夢幻能で迫る「豊饒の海」
能舞台のような簡素な素舞台。ロンドン演劇界の俊英、マックス・ウェブスターの演出は夢幻能のように光と影の陰影の深さを際立たせた静謐な日本の伝統美を基調とした。
20歳で夭逝した清顕と醜く老いさらばえ死んでいく本多の虚無は三島のエロス(生)とタナトス(死)の結実だろう。
存在感に満ちた演技で清顕の虚無を体現した東出。青年時代の本多を大鶴佐助、中年時代の本多を首藤康之、そして老年時代の本多は笈田ヨシが、それぞれ独自の個性を発揮し見事に演じ切った。
この小説を書き終えた三島はその足で陸上自衛隊市ケ谷駐屯地に赴き、割腹自殺を遂げる。
三島が作品に込めた「美しい日本」と、どこぞの首相が唱える「美しい国」の絶望的な乖離を泉下の三島はどう思うだろう。
12月2日まで、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA。
★★★★
(演劇ジャーナリスト・山田勝仁)