【追悼】高取英さん 過激で心優しき異端の劇詩人
人気劇団「月蝕歌劇団」の代表である劇作家・演出家の高取英さんが26日、虚血性心疾患のため世田谷区の自宅で亡くなった。享年66。
1982年に演劇舎螳螂が初演した「聖ミカエラ学園漂流記」は高取さんの代表作。聖地エルサレム奪回のために大人たちに利用された少年十字軍と、時空を超えて日本帝国海軍と合体する現代のミカエラ学園の少女たちを二重写しに、「神(権力)殺し」に立ち上がるセーラー服の少女たちを描いた「反逆の堕天使ロック」(高取談)。時空を往還しながら、あり得たかもしれないもうひとつの歴史から現代を照射する奇想の「高取史劇」は80年代小劇場演劇ブームの先駆けとなった。86年には自ら、劇団「月蝕歌劇団」を旗揚げし、「女神ワルキューレ海底行」「帝国月光写真館」「寺山修司 過激なる疾走」など多数の脚本・演出を行った。
自作のほかに、寺山修司、澁澤龍彦、埴谷雄高、沼正三、江戸川乱歩らの幻想文学や、竹宮惠子、梶原一騎、新田たつお、つげ義春らのマンガ作品を演劇化。美少女たちが大挙して出演し、血のり飛び交う耽美とエロスとロマンチシズムあふれる舞台は「暗黒の宝塚」と称された。 多くの物語に通底するのは斃れてもなお諦めず、世代を超えて未来に革命の意志をつないでいく若い少女たちの姿。そこには白土三平の「影丸」の影響があったと思う。 常に勝者の「正史」の裏に消えていった「逆賊」の側に思いを寄せるアナーキーで過激なロマンチストであった。