女優・柊子の転機 NHK朝ドラ出演の波に乗り切れず「私には覚悟が足りなかった」
人生には転機のタイミングがある。女優の柊子(30)はNHK朝ドラ「まれ」(2015年上期)での演技が注目を浴びたが、女優として大きくジャンプアップする波に身をゆだねられず、長らく後悔の念にかられる日々を送っていたという。
そんな悶々とした日常で一筋の光となったのが執筆活動だ。この度、自身はじめての小説「誕生日の雨傘」(文藝春秋)が刊行となり、筆を走らせた当時の状況を振り返るとともにずっと秘めてきた胸の内を明かした。
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本のタイトルにもなった第1編の「誕生日の雨傘」は、『オール讀物』(2017年12月号)に短編として掲載されたものだ。同作を軸に新たに3編を書き下ろし、全4編の短編小説で構成された同作の主人公たちは、14歳の中学生時代から描かれている。
「小説を書くきっかけをくださった編集の方から『自分よりも年齢が下の子を描く方がきっといいよ』とアドバイスをいただいんです。自分より年齢が上の、未知の世界を描くより、自分が経験したり通ってきた道を描く方が主人公たちの気持ちに寄り沿えるんじゃないかって。私は中学生の頃、女の子同士のいざこざに悩んだりしました。学校が私のすべてで、学校生活がうまくいかなければ自分はひとりぼっちなんじゃないかって本気で思ったり……。その時に感じた匂いや景色は今も鮮明に覚えています」
ーーその匂いや景色というのは?
「『じめっと、じとっとした』感じです。中学時代の私はいつも何かに悩んでいて、カラッと晴れやかな気持ちでいられた記憶ってそんなになくて。私に限らず、多感な時期の女の子って小さな世界の中で一人ひとりが複雑な事情や想いを抱えていること、あると思うんです。しかもその心の痛みは誰一人として同じではない。ただ、私自身、たくさん悩んできたので、問題の根源みたいなものは分かる。主人公の女の子たちの物語は実際に私が経験した話そのものではありませんが、『悩み』は物語の礎になって、書く原動力にもつながりました」
ーーはじめての小説、生みの苦しみではないですが、書く上でつらかったのは?
「書いても書いても、担当編集の方に『主人公(の女の子たち)をもっと追い込んでください』と言われたことでしょうか(苦笑)。失敗して、葛藤して、惨めな思いをしたからこそ、大きな壁を打破して彼女たちは成長できるんだと思うのですが、一番追い込まれたのは、他でもない私自身で……。『追い込んでください』という呪文によって毎日9時から18時まで、昼食とコーヒーを飲む時以外はパソコンに向き合う日々を送っていた私が、一番、壁を前にしてもがいていたような気がします」
■いじめの終着点
ーーいじめやスクールカーストの描写が出てきます。中学時代の鬱々とした気持ちを追い込んで掘り起こし、書き終えた直後の気持ちは?
「どっと疲れました。それでいて浄化というにはほど遠くて……。いじめって後腐れなくきれいに終わることってないような気がするんです。突然ぬるっと終わったり、自分自身が諦めたり。そういう消化しきれない感情を抱いたまま終着点を迎えるんじゃないかなって。もしかしたら、読者は読み終わった時にパアッと晴れやかな気持ちにはならないかもしれません。ただ、帯にも書いていただいた(書評家の)三宅香帆さんの『鮮やかに胸を衝いてくる読後感』という言葉はとっても嬉しかったです」