女優・柊子の転機 NHK朝ドラ出演の波に乗り切れず「私には覚悟が足りなかった」
挑戦することからも逃げてしまった
ーー当時の選択を後悔していますか?
「私の役者としてのキャリアは、“主人公のクラスメートの一人”からスタートしています。『まれ』は私の役者人生において間違いなく一番大きな役柄でした。以降は、オファーをいただく役が大きくなって怖くなり、飛びついてしがみついてでもつかみ取るべきだったのにしなかった。演技力も容姿も、とにかく自分に自信が持てなかったんです。周囲には、なんでもやりますっていうスタンスの方がたくさんいますが、私はそれができなかった。たらればの話ですが、あの時、「なんでもやります」って飛び込んでいたら、どうなっていたんだろうな、とは思います。もちろん、波に乗ったところで成功していなかったかもしれません。でも挑戦することからも逃げてしまったのは、紛れもなく自分の覚悟不足です」
ーー釈然としない思いを抱える中、演技や作詞とは異なる、「小説を書く」という仕事が舞い込んできたんですね?
「『オール讀物』の偏愛読書館というコーナーで、好きな本について書くお仕事をいただきました。このお仕事をくださった編集の方が小説を書くように薦めてくださり、また、ドラマや映画のお仕事の間隔があいている時にも、小説はずっと描き続けてくださいと背中を押してくださったんです。それが心を動かすトレーニングになっていました。不安で押し潰されそうな感情が少し和らいだ気がしています。小説に向き合う時間は、自分の中にある不安から解放されるという側面もあったと思います」
■芽生えた恩返しの心
ーー執筆という孤独な作業との戦いは、くしくも自身が選んだ役者としての転機について見つめる機会にもなりましたか?
「そうですね。私が朝ドラに出演して以降、周囲からは『あの子、パっとしないな』っていう印象を抱かれていると思うんです。もちろん、面と向かって言われたりしたわけではありません。ただ自分を客観的に見ても、「あの時、頑張ればよかったじゃん」って思うので。覚悟の足りなかった私が小説を書くことで見えてきたのは、恩返しという心。『まれ』の陶子役は、参加したヒロインオーディションをきっかけに起用いただいたのですが、今以上に何者でもなかった自分を引き上げてくださった方々、いつもお世話になっている方々に恩返ししなきゃいけないという気持ちが大きくなっていきました。今回こうして1冊の本として形にすることができて、まずは『まれ』のプロデューサーの方にご挨拶に行きました」