今、「老腸相関」に注目が!
かつて「脳腸相関」という言葉が世の中でいわれはじめ、以来、腸と健康は深い結びつきがあることが分かっており、最近では老化と腸の関係性も指摘され、「老腸相関」なる新たな考え方も大きくクローズアップされてきた。そこで、人間にとって重要な器官である腸と老化の関係について考えてみた。
■腸内細菌が老化を食い止める!?
人間にとって腸がとりわけ大切な機関であることは「腸は全身の司令塔」といわれることからもよく分かるだろう。
「腸に対して人々の関心が向けられるようになったのは、腸の研究が進んで腸内細菌の働きについていろいろと分かってきたからでしょうね」
というのは、腸内細菌研究の第一人者である京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座の内藤裕二教授だ。
内藤教授によると、人間の腸には1000種類以上100兆個もの腸内細菌が棲みついており、それらが体にとっていろいろと有用な働きをすることが明らかになってきたのだという。その中で人生100年時代を迎えた今、特に注目されるのが老化と腸内細菌の関係、すなわち「老腸相関」だ。
「これまで老化やエイジングは病気ではないので、医学の分野ではあまり取り上げられてきませんでした。ところが、ここ10年くらいの間に老化の特徴や老化の分子生物学的な解明が進んで、ひょっとすると老化というのはさまざまな病気と同じように止めることができたり、スピードを緩めることができるのではないかと考えられるようになってきたんです。そして、その結果として今までよくわかっていなかった老化のメカニズムが少しずつ明らかになってきました」(内藤教授)
つまり、老化の原因を突き止めることができれば、それを食い止めることで誰もが望む健康長寿を実現できるはずで、そのカギを握るのが「老腸相関」なのだ。
見逃せない腸内細菌の働き
老化と腸内細菌の関係性を示す興味深い研究データがある。内藤教授を中心としたグループが約7年前から京都府京丹後市の高齢者を対象に行っている、腸内細菌の分析調査だ。
京丹後市は100歳以上の高齢者が全国平均の約2.7倍と極めて多い長寿地域として知られているところ。そこに着目した内藤教授らが対象者の腸内細菌の分析をしたというわけだ。
「京丹後市と京都市都市部の高齢者の腸内細菌叢を比較した結果、健康長寿においては酪酸を産出する腸内細菌、いわゆる酪酸菌が重要な働きをしている可能性が高いのではないかという結果を得ることができました。メカニズムは解明中なのですが、腸の中でこの酪酸菌が増えると免疫細胞がうまく働くようになり、老化のもととなる炎症にブレーキをかけるのではないかと考えられます」(内藤教授)
さらにもう一つ、酪酸菌には見逃せない効果も期待されている。というのは、高齢になるとどうしても握力の低下や歩行速度の遅れが顕著になり、サルコペニア(筋肉減少症)が増えてくるものだが、京丹後市の高齢者にはサルコペニアがひじょうに少ない。内藤教授は、このことにも酪酸菌が関わっているのではないかと推測している。
食物繊維+ヨーグルトが有用菌を増やす
このように、健康長寿のためには腸内に酪酸菌をはじめとした有用菌を増やすことが大切であることが分かった。では、そのためにはどうしたらいいのか、続けて内藤教授に聞いてみた。
「京丹後市の高齢者は海藻、葉野菜、根菜、豆類、イモ類、さらに、玄米や雑穀など精製されていない穀物、いわゆる全粒穀物といった食物繊維が豊富な食品を毎日摂っている人が多いのです。そのことから食物繊維の多い食事、それにプラスして、有用菌が豊富に含まれるヨーグルトなどの発酵食品を毎日食べるようにするといいでしょうね」(内藤教授)
もちろん食物繊維を毎日摂るように心がけていたとしても「動物性の脂肪・肉」「砂糖・果糖の単糖類」「塩分」などこれらを摂り過ぎてしまうと、逆に腸の老化を進めてしまう。「寝る前の食事は控える」など食べ方や生活習慣にも注意が必要なのはいうまでもない。
最後に、内藤教授から読者にアドバイスをもらった。
「今まで腸内細菌のことは何も考えないで栄養学は進歩してきました。しかし、これからは食べたものが腸内でどうなるのか、どんな働きをしてくれるのかということをきちんと考えておかないとダメでしょうね。単なるカロリー計算だけでは健康は達成できませんから」
心に留めておきたい一言だ。