「千束いせや」の天丼のうまさと店の人たちの情に涙腺が緩んだもうひとつの理由
老舗に来たならやっぱり天丼!
真冬の割に暖かく、冷酒がうまい。ちびちびやっていると、天丼がお目見え。黒っぽいタレのかかったてんぷらは海老2本とキスとかき揚げだ。歴史を重ねたタレがご飯に染み込んでうまそうなことこの上ない。
まずは海老を一口。そしてご飯を頬張る。海老の尻尾をツマミに冷酒をぐびり。サイコ~。酒を飲むなら定食にして塩でてんぷらをツマミにするところだが、老舗に来たなら天丼でしょう。100年物のタレを味わわない手はない。ふっくら揚がったキスを頬張りそこに冷酒を放り込む。これもまたいい。今度は海老を尻尾の方からバクリ。香ばしい尻尾とプリプリの身を同時に味わう。そこにまた冷酒。え! 悪食だって? 構うもんか。だってうまいんだもん。冷酒がなくなった頃合いに残っているかき揚げでご飯をかっ込む。丼物はこうやって食うのが最もうまい。若女将が熱いお茶を差し替えてくれた。その気遣いがうれしい。お勘定のときに来意を告げると、若女将が親切に伊勢屋の歴史を語ってくれた。
「わからないことがあったら聞いてくださいね。これからは5代目が頑張りますから」
大女将がそう言ってほほ笑んだ。ランチタイム最後の客が入ってきたところで辞することに。すると厨房から3人が顔を寄せて笑顔を向け、若女将は出口まで来て送り出してくれた。うれしいなあ。うまいものを食って親切な人たちの情に触れたアタシは、いいトシをして涙腺が緩むのをこらえるのに必死でした。ソープ街の聖地巡礼にしんみりした後だっただけに、なおさらジーンときたのです。
(藤井優)
○千束いせや 台東区千束2-23-5