東レ(上)素材産業を代表する科学メーカー “黒いダイヤ”をはじめ技術力はピカイチ
失われた30年の間に、日本企業の国際的地位は大きく低下した。1990年の世界銀行ランキングのトップ10には日本の銀行が6行入っていたが、今ではゼロ。家電や半導体なども世界をリードしていたが、今や韓国サムスンなどに大きく水をあけられている。
それでも自動車だけは、世界トップクラスにあるが、EV(電気自動車)で出遅れただけに将来に不安が残る。
そうした中、今もそして将来も、国際的競争力を持ち続けるだろうといわれているのが素材産業だ。その中にあって東レは、世界一や世界唯一をいくつも抱える、日本の素材産業を代表する化学メーカーだ。
例えば炭素繊維。東レの炭素繊維開発は1960年代に始まり、71年には商用生産を開始した。当初はゴルフクラブのシャフトや釣り竿などの用途しかなく、収益にはほとんど貢献しなかったが、品質はその後大きく向上し、90年にボーイング777の第2次構造材に採用される。
東レの2代前の社長で経団連会長も務めた榊原定征氏は、67年に入社後、炭素繊維開発の部署に回される。当時炭素繊維は「黒いダイヤ」と呼ばれており、「黒いダイヤで飛行機を飛ばそう」というのが研究者の合言葉だった。B777でその夢がかなった。