夜中のバルコニーから松井秀喜の荒い息が聞こえてきた
本当に!?
そう言って松井秀喜と顔を見合わせたのは、巨人が5年ぶりの日本一になった、94年の豪州V旅行でした。4年目22歳になった僕はこの年、90試合に出場。打率.280、4本塁打、25打点。脇役ながら優勝に貢献できた自負もあり、初めての優勝旅行を小躍りしながら待っていました。
しかし、直前に発表された現地での部屋割りを知って愕然。チームで僕と松井の2人だけ、相部屋だというのです。
「独身のおまえらが遊ばないように」
と球団関係者。いや、遊びに行くんでしょ!? と思いましたが、変更してくれるような雰囲気じゃありません。
松井と苦笑いしながら到着したゴールドコースト。ホテルの部屋に入ってビックリしたのは松井が荷ほどきのために開けたスーツケースでした。斜めにバットが1本、入っていたのです。
もちろん僕は、野球道具などボールひとつ持ってきていません。
もっと驚いたのが初日の夜。先輩選手らと飲みに出た僕が部屋に戻ったのは、夜中の1時すぎでした。ドアを開けると中は真っ暗。なんだ、松井も遊びに行ってまだ帰ってきてないんだ。そう思いながら、フラフラになってベッドに倒れ込むと、外から聞こえる異音が気になりました。