松井秀喜は「へへへ」と笑うだけでした
93年に入団してきた松井秀喜は何から何まで規格外でした。風貌、飛距離、スイングスピード、そして泰然自若とした立ち居振る舞い。本当に18歳!? と何度も聞き返したくらいです。
僕が1年目の彼の運転手役を務めていたことは連載の1回目で触れましたが、その車中でもそうでした。僕もまだ3年目の若手だったとはいえ、一応、3歳上の先輩です。でも、松井は緊張するでも、遠慮するでもなく、常にマイペース。彼を目的地まで送り届けようとする際、平然と後部座席に乗り込むこともありました。
「これでは、本当にオレはただの運転手だよ。こういうときは、助手席に乗って、お願いしますって言うものだ!」
さすがにあのときは、そうつっこんだものの、それでも松井はヘヘヘと笑うだけ。大物でした。
こんなこともありました。シーズン中、試合前に行われていた長嶋茂雄監督による松井へのマンツーマンでの素振り指導。本拠地の東京ドームでは、選手サロンの前にあるミーティングルームが特訓の場に使われていました。コーチからミーティングの招集がかかって部屋に向かうと、鍵がかかっている。そんなときは、試合前の野手全員とコーチが「松井待ち」です。それはいいのですが、ようやくガチャッと鍵が開き、バットを持って汗だくの松井が出てきた部屋を見ると、きれいに並べられているはずの机と椅子が隅っこに寄せられたままです。