元早大監督・渡辺康幸氏に聞く 2020年箱根駅伝の見どころ
青学大は「監督力」
令和になって初めての箱根駅伝で最も注目しているのが青学大です。箱根駅伝は1区間20キロ以上です。青学大は距離が長い駅伝が得意です。今回は5区山上り、6区山下りのスペシャリストがいません。
箱根の山をどう克服するかで、優勝もあるし、5位もある。
原晋監督は2020年の大会を、「戦術駅伝」と称しています。戦力に自信のあった昨年までは、エントリー後には誰がどこを走るか報道陣の前で具体的に話していました。区間配置については今もだんまりを決め込んでいるのは、例年より戦力が落ちる分、「監督力」で勝負するつもりなのでしょう。
中京大OBの原監督は学生時代、箱根駅伝を走った経験がありません。東海両角監督、東洋酒井俊幸監督、駒沢大八木弘明監督は、いずれも学生時代に箱根を走り、早大監督だった私も1年で総合優勝を経験。往路優勝も2回あります。指導者は壁にブチ当たったとき、自らの経験に頼りがちです。しかし、成功体験は必ずしも良い結果に結びつくわけではありません。原監督は、「エースは2区に起用する」「復路は9区に実力者を配する」といった箱根駅伝のセオリーは一切頭にありません。勝つために10個(人)のピースをどの区間に、どうはめ込むかということしか考えていません。だから、専門家といわれる人たちでも、青学大の区間配置の予想は、大変難しいのです。
箱根駅伝は、監督たちの駆け引きも興味深いところです。12月29日の区間エントリーは、どんなオーダーを組んでくるのか。各区間の正競技者10人と補欠6人が登録されますが、往路、復路それぞれ当日のスタート1時間10分前に4人まで変更できます。もちろん、突然の体調不良によるオーダー変更はあるものの、ライバル校のオーダーを見てから選手を入れ替えたり、どの区間でも走れる補欠登録の選手をメンバーに入れることはよくあります。往路の順位が悪ければ復路を3人替えたりもします。主力が区間エントリーから外れていれば怪しいですね(笑い)。もっとも、戦力に自信のある監督は小細工はせず、当初のオーダー通りでレースに臨むものです。原監督は今回、東海大の両角監督を駆け引きで揺さぶり、完璧な区間配置を行えば勝機はあるとみているのではないでしょうか。
■強風なら荒れる
最後に風の影響について触れておきます。1月2、3日に強い風が吹くことは珍しいのですが、不運にも強風が吹けばレース展開は大きく変わるかもしれません。選手たちは、向かい風、追い風に、それぞれ強い者と苦手な者がいます。優勝候補の大学でも、各選手が実力を発揮できずに涙をのむことがあります。
予選会から勝ち上がった日体大が総合優勝を果たした13年の大会がそうです。早大は往路にスピードランナーを固め、大迫傑(3年)は3区に配しました。ところが1区から強い向かい風が吹き、17位と大きく出遅れます。3区の大迫が3位まで順位を上げましたが、総合5位に終わりました。設楽(啓太、悠太)兄弟に服部勇馬を擁する前年覇者の東洋大も風に翻弄され、約5分遅れの2位。ダークホースの日体大は向かい風に強い選手が多く、最大風速18メートルの風が吹き荒れる箱根の山(5区)で首位に立つと、復路はそのまま逃げ切りました。
強風が吹いたらレースは荒れるでしょう。