野茂英雄の“真骨頂” 全身が震えあがるほどの凄みを感じた
試合終盤の打席で、リナレスが放った強烈なライナーが野茂の足に直撃した。ドンという鈍い音がして、打球は三塁方向に転がった。かなりの衝撃を受けたはずだったが、それでも野茂は表情を変えず、痛がるそぶりをみじんも見せず、何もなかったかのようにマウンドに立とうとした。
普段は朴訥としていて、口数も多くなく、マウンドでも感情をあらわにするタイプではなかったが、一歩も引くつもりはないという気迫、気概がひしひしと伝わってきた。それまで野茂の投球を見たことはあったが、ここまでの姿を目の当たりにしたのは初めてのこと。ダッグアウトにいた私は、全身が震えあがるほどの凄みを感じた。
野茂はソウル五輪で先発、リリーフとフル回転。銀メダル獲得に貢献し、一躍、日本中の注目を集めることになる。五輪での活躍も素晴らしかったが、私はイタリアでの投球に野茂英雄という投手の素晴らしさが凝縮されていると思っている。 (つづく)