本の森
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女性たちが闘いとってきた「自身の存在価値」
福田前財務事務次官のセクハラ事件に対して多くの女性たちが抗議の声を上げたが、上野千鶴子は、その抗議の中に「家父長制と闘う」「ジェンダーの再生産」「自分を定義する」といった女性学・ジェンダー研究の学術…
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神父と隠れキリシタンの再会は粉飾か
一昨年マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙―サイレンス―」(原作・遠藤周作)が公開され、今年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界遺産に登録される可能性が高いなど、ここにき…
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一足とびに大人になった手塚治虫らのこども時代
日本のメーキャップアーティストの草分けであり、83歳のいまも現役の美容研究家として活躍している小林照子さんが、その昔、「どんなに怖そうな男の人でも、その人の赤ちゃんやこどもだった頃を思い浮かべると可…
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東アジア版移動文学論が切り開く可能性
「外地」とは、一般には日本がかつて領有していた朝鮮・台湾・樺太(サハリン)・南洋群島などを指す言葉で、対義語は「内地」だ。ただし、北海道や沖縄では本州を「内地」と呼ぶこともあり、単に植民地と本国とを区…
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ホモ・サピエンスだけが生き残った謎に迫る
700万年前にチンパンジーと枝分かれした「人類」は現存のホモ・サピエンスに至るまでおよそ20種類ほどの種が存在していたという。本書が問うのは、なぜ他の種は消滅して我々(ホモ・サピエンス)しか存在して…
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エピソード記憶を失った男の物語
したたかに酔っぱらい、前後不覚に陥ったにもかかわらず、気づいたらベッドで寝ていた――酒飲みなら、一度はそんな経験があるはず。この帰巣本能ともいうべき体が覚えている記憶のことを「手続き記憶」という。 …
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世界的発見のきっかけは「気晴らし」から
民俗学者の柳田国男は、「木綿以前の事」の中で、木綿が日本人の生活にもたらした大きな変化を論じたが、木綿の普及は、日本に限らず世界史的な出来事であったことが本書によって知ることができる。 17…
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がれきの街から掘り出した本で図書館を開設
シリアにおける民主化運動、「アラブの春」は2011年3月に始まるが、首都ダマスカス郊外の町ダラヤはアサド政権に抗議する反体制運動の拠点であった。それだけに政府側の攻撃も激しく、うち続く爆撃などによっ…
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人と人をつなぐことこそ出版の醍醐味
1922年、スイスの精神科医・心理学者のC・G・ユングは、チューリヒ湖畔のボーリンゲンに土地を買い、翌年、塔のような円形家屋を建てた。有名な「ボーリンゲンの塔」である。この塔は、ユングの「個性化の過…
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精神より“下等”な肉体から統合失調症を考察
ドキッとするタイトルである。解剖学者の三木成夫の本に「内臓とこころ」という本がある。これは排尿のときの膀胱の感覚、お腹のすいたときの胃袋の感覚など、内臓の感覚を述べたもの。対して本書のタイトルは、「…
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メキシコに語学留学した翻訳家の格闘記
「六十の手習い」とは晩学のたとえだが、学問や稽古事を晩年に始めても遅すぎることはないという意味で使われることも多い。だが、こと外国語学習に関しては臨界期(その時期を過ぎると学習が不可能になる期間)があ…
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俗語を巧みに活用した名訳
昨年9月に刊行が始まった「水滸伝」の完訳が完結した。400字詰めで7300枚に及ぶこの大長編を月1巻のペースで出していくには、訳者、編集者、校正者その他の並々ならぬ労苦が想像される。 「あとが…
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詩で食っているただ一人の詩人
現代日本に自称・他称「詩人」と呼ばれる人は数あれど、「詩を書いて食っている詩人」といえば、谷川俊太郎ただ一人。24歳の谷川は「1956年の日本で、詩を書いて食っている詩人はいない。しかし、だからとい…
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世界一センセーショナルな作家の“処女小説”
ウエルベックといえば、フランスにイスラム政権ができるという近未来小説「服従」の刊行当日に、イスラム教過激派を風刺した週刊紙「シャルリー・エブド」の襲撃事件が起こるなど、〈世界一センセーショナルな作家…
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現代にもつながる縄文ネットワークの広がりを検証
いち早く縄文文化の特異性を指摘したのは岡本太郎だったが、以来、何度かの“縄文ブーム”といわれる縄文文化への関心が高まった時期があり、近年ふたたびその兆しがあるという。とはいえ、ひと口に縄文といっても…
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エーコの自作品解説も兼ねる講義録
本書は、一昨年84歳で亡くなったイタリアの中世美学・記号論・哲学と幅広い分野で活躍した世界的知識人にして小説家でもあるウンベルト・エーコが2008年10月5日から3日間にわたって米国エモリー大学にお…
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ユダヤ人迫害をいち早く察知した“ピッピ”の生みの親
赤毛のツインテールで、顔はそばかすだらけ、そして長いくつ下をはいている世界一つよい女の子“ピッピ”。ご存じ、スウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーンの「長くつ下のピッピ」である。この…
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「世界の良心」チョムスキーの現代アメリカへの批判
ノーム・チョムスキーといえば、変形生成文法理論を提唱した言語学者であり、反戦運動や市民運動に積極的にかかわる先鋭的な思想家としても知られている。 また第2次安倍内閣発足後半年の時点で、安倍晋…
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“未来の計画”を立て早起きするチンパンジー
古来、人間とは何かという定義が種々なされてきた。いわく、ホモ・サピエンス(知恵ある人)、ホモ・ファーベル(工作する人)、ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)、ホモ・シンボリクス(象徴を使う人)、ホモ・パティエ…
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レニングラード包囲の872日間を描く日記文学
今年はロシア革命から100年。その革命後約四半世紀たった1941年6月22日、ナチス・ドイツはソ連に侵攻した。9月8日には、レニングラード(現サンクトペテルブルク)を封鎖・包囲し、以後44年1月27…