「図書館巡礼」スチュアート・ケルズ著、小松佳代子訳
アレクサンドリア図書館といえば古代最大の知の殿堂といったイメージだが、本書には同館の本の収集方法が明かされている。アレクサンドリアの港に本を積んだ船が入港すると、その本は図書館に押収され、筆写し終えると新たに作られた複製が船に返却され、原本は図書館に留め置かれた。
このような手口に対して他の都市や図書館は、巨額の保証金を供託しない限り同図書館への書物の貸し出しを拒んだという。とはいえこの方法のおかげで、アレクサンドリア図書館が破壊されても複製という形で生き延びた本も多かったのではあるが。
本書にはこのアレクサンドリア図書館の他、オーストラリアのアボリジニに伝わる口誦の図書館、メソポタミアの書字板図書館、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」のモデルとされるボッピオ修道院図書館などのヨーロッパ中世の修道院図書館、資産を尽くしてシェークスピアのファースト・フォリオを追い求めたピアモント・モルガン図書館、ボルヘスやトールキンなど作家が紡いだ物語の中の図書館……といった実にバラエティーに富む図書館が登場する。
作家であり書物取引の専門家でもある著者は、それら図書館の来歴やエピソード、さらには製紙や印刷技術の発達史や図書館建築の推移に至るまで、縦横無尽に語っていく。
本に取りつかれたビブリオマニアの話も凄まじい。イギリスの書籍収集家、リチャード・ヒーバーは、完璧な個人図書館をつくり上げようと資産の限りを尽くして10万冊以上の本を集めた。望み通り本に埋め尽くされた部屋で死ぬことができたが、残された本の競売には216日かかったという。どうやら図書館とはただ本を集めただけの場所ではなく、なんとも人間くさく、恐ろしく、かつ魅力的な場所であるらしい。 <狸>
(早川書房 2500円+税)