シネマの本棚
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金持ち連中の中で道化じみていくカポーティ
トルーマン・カポーティはスコット・フィッツジェラルドと並ぶ20紀アメリカ文学史上の悲劇の天才。若くして文壇で成功を収め、一躍注目の若手になるものの、名声につきものの虚栄にあらがえず、結局は自滅した。…
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台湾人の独立意識が高まった「ひまわり運動」
抗議デモがすぐ「暴動」よばわりされる昨今。思い出されるのが6年前、台湾を席巻した「太陽花學連」こと「ひまわり学生運動」だ。 親中派・馬英九総統率いる国民党の強硬姿勢に「密室政治反対」を唱える…
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天性の愛嬌とはこの人のためにあるような言葉
小学生のころはヒーローの二枚目に憧れたものだが、中学になると二枚目半のほうが一枚上手だと気づく。そのきっかけがジャン=ポール・ベルモンドだった。アラン・ドロンと並ぶ仏映画界きってのスター。彼を知らな…
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創業者ベリー・ゴーディが語るヒット曲量産の秘密
戦後のベビーブーム世代にはモータウン・サウンドのファンが多い。 「初のヒップホップ大統領」といわれたオバマ前大統領も2008年選挙戦のとき、「やっぱりぼくの世代はマービン・ゲイとかがいいよね」…
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メキシコの泉の光と風景の幻想的な映像
映画はやはり映画館でなくては、と思う。ネット配信全盛の現代、コロナ禍で配信もさらに増えるだろう。それでも映画館でなければいけない。理由は「色」だ。それも黒の陰翳。写真集の印刷でスミ(墨)が決め手にな…
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歌い・踊る映像で描く若者たちの人生の暗部
近頃の若い監督たちの映画には、共通して独特の映像感覚がある。流れるようにカメラが突き進んでゆく映像が、自然な息遣いとなって目と胸に迫ってくる。 バイクや自転車やスケボーで自分自身が街中を疾走…
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ライオンとトラの咆哮が戦闘機の爆音に
腕のいい職人の話は気持ちがいい。簡潔で無駄なく、自然な深みがあって面白い。 ――とほめちぎりたくなるのが今月28日に都内封切りのドキュメンタリー映画「ようこそ映画音響の世界へ」だ。 映画の…
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肩を寄せ合うアパートでの差し迫った人間劇
いまから10年前の年末、ひとりの露天商の焼身自殺をきっかけにチュニジア全土で起こった反政府デモ。そこから始まったとされる「アラブの春」を、いまどれほどの人が覚えているだろう。 その後、デモは…
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国連第2代事務総長の死の真相を追う
新型コロナ禍で評判を下げた世界保健機関(WHO)。おかげで上部組織の国連までが機能不全の権化に見えた。 だが、翻って国連が理想主義の光を放った時代は果たしていつまでだろう。 そんなこ…
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気球で西ドイツへ脱出した一家の実話
自由な意思で動くことができず、他人との接触を恐れる社会。べつに新型コロナウイルス禍に揺れた日本の話ではない。 1970年代末、まだベルリンの壁が倒れる気配すら見せなかった時代の東ドイツの話で…
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自然養蜂をいとなむ老女の姿を描く誠実な映像
端正な、目を洗われるような映画である。新型ウイルス禍でようやく来週末に封切られる「ハニーランド」。 前評判では米アカデミー賞の「ドキュメンタリー映画」と「国際映画」の両部門にノミネートされた…
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次第に夢幻の気配を強める男の旅
映画館は夢を見る場所。「緊急事態」の下で痛感したのがそれである。自宅に5K映像の大型モニターがあったとしても、映画館の座席で見上げるスクリーンに勝るものはない。改めてそう感じるのは筆者だけではないだ…
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映画館の復活を夢見る男たちのドキュメンタリー
新型コロナウイルス禍で映画館の休止が依然として続く。対抗策として始まったミニシアター系中心のオンライン配信網も本欄で紹介したが、今回はいったん封切りされながらも突然の騒ぎで中断し、再公開を待つ映画に…
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トラウマを退治する「心の魔術師」の仕事ぶり
かつて「カルト映画の王位」と呼ばれた奇想の映画「エル・トポ」。日本公開は80年代半ばだったが、60年代サイケデリック文化のエッセンスそのままで、名状しがたいめまいを覚えたものだ。 その監督ア…
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「精神0(ゼロ)」老いを微笑とともに受け入れた精神科医のドキュメンタリー
新型ウイルス禍で世間は大混乱。街の映画館も軒並み休館し、新作の封切りも先行き不透明のまま延期になった。大手の映画会社やシネコンならまだしも、これでは単館ミニシアター系はたまらない。 そこで立…
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監視国家のイヌ役に徹したジョン・グッドマン
都知事の「外出自粛」令で前回紹介した「ハリエット」まで公開延期になった。さながら戒厳令の体で、街でも人の影が薄い。まるでSF映画の廃虚を見ているようだが、今週末封切りの「囚われた国家」はまさしくそん…
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いまもつづく差別と抑圧の現実に思わず襟を正す
新型コロナウイルス禍のさなかでも見逃せない春の新作。それが来週末封切りの「ハリエット」だ。 19世紀半ばの米南部で農園を脱走し、奇跡的に北部の自由州に逃れた女奴隷ミンティことハリエット・タブ…
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現実の名建築を借景した“建築映画”
映画と建築は相性がいい。映画のセットはもともと空想の家や町のようなもので、未完の建築がスクリーン上だけ実現した例もある。来週末に都内封切り予定の「コロンバス」は、逆に現実の名建築を借景した“建築映画…
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女子による女子のための女子の物語
韓国映画が米アカデミー賞で話題。昨今の「多様性ばやり」の結果とも、米映画界の企画力低下の反映ともいわれるが、安直な印象のリメーク物にも意外な変化がある。今週末封切りの「チャーリーズ・エンジェル」もそ…
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構想30年、幾多の挫折を経てついに完成
世界的に古典として知られるのに、専門家以外、最後まで読み通した読者がほとんどいない二大小説。答えはダンテの「神曲」とセルバンテスの「ドン・キホーテ」なのだそうだが、その映画化に挑んで構想30年。幾多…