「トットひとり」黒柳徹子著
自伝的物語「窓ぎわのトットちゃん」がベストセラーになってから30余年が過ぎて、トットちゃんの身辺は大きく変わった。家族とも思っていた大事な人、大好きな人、自分と同じにおいのする人たちが、一人また一人と亡くなった。そんな人たちの思い出を、深い愛情を込めて書いたエッセー集。子どものころから観察するのが大好きだったというトットちゃんの記憶の中から、あの人、この人の楽しくて悲しいエピソードがあふれ出す。
ある時期のトットちゃんは、霞町で一人暮らしをしていた向田邦子さんのもとに入りびたっていた。おなかがすくと、あり合わせのもので手早くおかずをつくってごはんを食べさせてくれた。時がたち、ふと思い立って向田さんに電話をすると、台湾旅行中との留守番電話。その日のちょうどその時刻、向田さんは台湾で飛行機の上だった。
森繁久彌さんは、最初に会ったころから、「1回、どう?」が口癖で、それが50年も続いた。老いても枯れない人だった。兄ちゃんと慕う渥美清さんは、いつも「お嬢さん」と呼んでいる妹分をよくからかった。母さんと呼んでいた沢村貞子さん、もう一人の兄ちゃん杉浦直樹さん、お姉ちゃんの山岡久乃さん。トットちゃんの周りには、優しくて、面白くて、凄い人ばかり。