「東京路地裏横丁」山口昌弘著
再開発の名のもと、日々、更新されていく表通りをはずれて、一歩、路地裏に足を踏み入れると、そこには懐かしさを感じさせる昭和の風景が広がっている。東京各所に今もオアシスのように点在するそんな路地裏の横丁を訪ね歩く写真集。
無秩序に張り巡らされた配線やむき出しの配管がまるで香港にかつて存在した魔窟「九龍城」を彷彿とさせる昼間の新宿「ゴールデン街」。夜ともなれば、人ひとりがやっと歩けるほどの路地裏にひっそりとたたずむ酒場の看板にも明かりがともり、あの入り組んだ配線が酔客をからめとるためのクモの巣のように鈍く光る。
店内に風を入れるためか、開け放った扉を押さえるために置かれた椅子の上では、酔っぱらいの声などどこ吹く風で猫が丸くなる。
同じく新宿の「思い出横丁」。引き戸がすべて開放され、路地と一体化した店のカウンターを客たちが埋める。微妙に曲がりくねった路地の奥からもぼんやりとした明かりが漏れ、道行く人々を誘い込む。まるで映画のワンシーンのような光景だ。
渋谷の「のんべい横丁」では、常連客が行きつけの店の引き戸をうれしそうに開ける写真から、客を優しく出迎える女将の人柄や店内の賑わいまでが伝わってくる。別の店では、店内はすべて座敷なのか、軒先に客たちの靴が整然と並んで置かれ、幼いころのおままごとを思い出させる、なんともアットホームな感じだ。