「東京路地裏横丁」山口昌弘著
その他、背後にそびえる高層ビルと横丁の風景がミスマッチな三軒茶屋の「三角地帯周辺」や、一角に祭られた社がよその路地とは異なる整然とした空気を醸し出す銀座の「路地裏小路」、そして酒飲みの聖地・立石の「呑んべ横丁」など、都内14カ所の路地裏横丁を約200点ものモノクロ写真で巡る。
写真に説明は一切なく、「階段の狭い廃ビル立ち並ぶ路地で昔のあなたと出逢ふ」「まひるまの袋小路にひとすぢの光が射して誰も気づかぬ」など、ページの合間に添えられた菊池裕氏の短歌に触発され、それぞれの写真に封じ込められたドラマが動きだす。読者はただ写真の奥まで広がる路地裏横丁の中に自らの身を遊ばせ、その居心地を楽しめばよい。
吉祥寺の「ハーモニカ横丁」のように、多くの路地裏横丁は戦後、焼け野原だった場所に闇市や屋台が重なるように集まってできた。戦後の何もない時代に人々の憩いの場所として生まれた路地裏横丁が、時代を経て、今も庶民の一日の疲れを癒やすかけがえのない場所になっている。しかし、徐々にその姿を消しているのも事実。この写真集が在りし日の路地裏横丁の風景を記録した貴重な史料にならないことを祈る。(CCCメディアハウス1800円+税)