「霧」桜木紫乃氏

公開日: 更新日:

「書いていて不思議だなと思ったのは、持って生まれた気質と生まれ順はリンクしていて、人は与えられたポジションに忠実に生きていくものだな、と。『宋家の三姉妹』流に言えば、智鶴は権力、珠生は男、早苗は実家を愛したわけですが、与えられた環境であっても、自ら飛び込んだ場所でも“どう生きていくか”を決めるのは自分自身。珠生は、女房や姐としての立場を優先し、自分の気持ちに折り合いをつける道を選びます。でも逃げない生き方って、実はしんどいんですよね」

 物語は後半、重く立ち込めていた霧が晴れたかのように、各人の秘密が明らかになっていく。複雑に絡み合った姉妹の夫たちの利権争い、夫の愛人の存在、姉妹の確執、そして裏で糸を引いていた本当の人物もわかってくる。

「何もかも知ってしまうのはつらいことですが、知ってしまったからには前に進むしかありません。珠生は霧に覚悟を促されます。覚悟をすると今日を境に昨日と明日が明確に分かれます。珠生の決心と野付の景色が自分の中で見事にマッチしました」

 執筆に1年を費やしたという著者の渾身作。どうにもならない現実に向き合い、生きる人々の息苦しさとたくましさが胸に迫る。

▽さくらぎ・しの 1965年、北海道生まれ。13年「ラブレス」で第19回島清恋愛文学賞受賞、同年「ホテルローヤル」で第149回直木賞受賞。12年刊行の「起終点駅 ターミナル」を原作とした同タイトルの映画が11月7日から公開される。

【連載】著者インタビュー

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動