「室町耽美抄 花鏡」海道龍一朗氏
戦乱の世に生きた武将たちの壮烈な戦いと生きざまを描いてきた著者だが、本作で主人公に選んだのは芸の道に生きた4人の男たち。申楽を能という芸術に高めた世阿弥と、義父である世阿弥から能の奥義を授けられた金春禅竹。そして風狂の僧、一休宗純と、わび茶の創始者である村田珠光。彼らの生きた時代は、室町だ。
「時代小説が好きな人でも、この時代の人物に関しては名前を知っているぐらい、という人も多いのではないでしょうか。武田信玄や織田信長など、何を成し、どんな顔をしていて、どんな甲冑を身につけていたかまでが頭に浮かぶ時代小説のスターは数多い。それでは、足利義満はどうでしょうか。この人ほど業績と知名度が見合わない人はいません。これは室町時代全体にも言えることで、その背景には明治維新という大きな出来事が作用しているんです」
天皇を中心とした国づくりを目指した明治政府にとって、後醍醐天皇と敵対した足利と室町は認めることのできない存在だった。そのため、歴史学の教育でも軽んじられ、当然この時代に関する研究者も少なくなった。
その影響が今なお尾を引き、足利や室町を題材にした小説や時代劇は極端に少ない。