「霧」桜木紫乃氏
直木賞受賞後、初の長編小説となる最新作は、3姉妹の愛憎を軸に据えた桜木版「宋家の三姉妹」ともいうべき、エンターテインメント小説。北海道最東端、ロシアとの“国境の町”根室を舞台に、自分の力で居場所を見つけていく女たちの物語だ。
「これまで北海道を舞台にした作品を書いてきましたが、国境のある町を舞台にしたのは初めてです。物語に出てくる野付半島で見た霧はすごく重くて、その景色はまるで“この世にあるあの世”のようでした。そんな濃い霧で先が見えない中で極道の姐になっていく珠生の姿と取り巻く人々との関係を描きました」
時は昭和30年代。戦前から水産業を営む河之辺社長には3人の娘がいた。その次女・珠生は生家の世間体大事を嫌い、15歳で芸者になったはねっかえり。そんな珠生が惚れたのが、「育ての親」に代わり刑務所に入る相羽重之だった。
出所後、珠生は海峡の裏仕事を牛耳るようになった相羽と所帯を持ち、図らずも姐となる。長女・智鶴は親の命に従って政界入りを目指す運輸会社の御曹司に嫁ぎ、三女・早苗は金貸しの次男を婿に取って実家を継ぐことが決まる。