よみがえるテヅカ
「手塚治虫とトキワ荘」中川右介著
今年は手塚治虫没後30年。その影響はいまなお大きい。
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昭和22年、手塚の「新宝島」が世に登場した。これに強烈な影響を受けたのが富山の藤本弘と安孫子素雄(のちの藤子不二雄)、宮城の石森(石ノ森)章太郎、そして満州から奈良に引き揚げた赤塚藤雄(不二夫)らである。やがて彼らは手塚を慕い、彼の住む東京・豊島区のトキワ荘へと集まってきた。
本書はそんな日本戦後マンガの「伝説」の実像へと迫る力作ノンフィクション。マニアックな読者の多いクラシック音楽雑誌の編集者だったという前歴のせいか、著者の取材や資料の読み込みは鋭く、こまかく、好奇心にあふれて2段組み400ページ弱の大部でも最後まで飽きさせない。
赤塚と同世代ながらデビューの早かった横山光輝と手塚の関係や作風の相違など、エピソード的な細部にも発見や貴重な情報が多く、いにしえのマンガ少年なら誰もが楽しめる好著である。
(集英社 1900円+税)
「手塚治虫と戦時下メディア理論」大塚英志著
以前、平和主義者の宮崎駿がなぜ軍用機が好きなのかというので話題になったことがある。実は問題の根本は、戦前から戦中にかけての「科学」をめぐるプロパガンダやメディア理論が当時の少年たちに与えた影響にある。
たとえば16歳の手塚少年は日本軍の南進を描いたアニメ「桃太郎 海の神兵」を見て「文化映画的要素を多分に取り入れて、戦争物とは言いながら、実に平和な形式をとっている」と評したという。マンガ・アニメ評論で地歩をなした著者は、今村太平ほか戦前戦中のモンタージュ映画論を手引に、当時の日本における「近代」のありさまに迫る。
少年時代から手塚の心中に根付いた科学信仰を読み解いている。
(星海社 1400円+税)
「まんが『ブラック・ジャック』に学ぶ自分を貫く働き方」手塚治虫著
著者名を見てびっくり。え? テヅカの新刊? 実はこれ、「ブラック・ジャック」全作の中からコマやページを抜粋した再編集もの。「そ、そんな大金は出せん」「ではこの話はなかったことにしましょう」とか「マトモな医者ならなぜあたりまえのことができねエんだい!」とか。クライアント相手にわざと高値をふっかけたり、タンカを切ってみせたりするブラック・ジャックの名場面だけを集め、容易に人になびかないBJの一匹オオカミぶりに学ぼうというわけだ。理不尽な上役や取引先にも、切ってみたいぜこのタンカ。
(プレジデント社 1300円+税)