官邸のスパイたち
「内閣調査室秘録」志垣民郎著、岸俊光編
今回の参院選でも暗躍したと噂される「内閣情報調査室」(内調)。その実態を描く本が続々。
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話題の内調本は数あれど、実は本書が最重要。冷戦下の1952年、アメリカの戦略拠点となることでようやく「独立」を達成した日本。当時の吉田茂内閣下で創設された「内閣総理大臣官房調査室」の創設メンバーによる回顧と詳細な記録が本書だ。
著者は「生活綴方運動」のリベラルな教育運動家の息子に生まれ、東大時代に出征。戦後創設された内調の職員となり、主に左派の文化人や知識人を、親米保守政権のために取り込む仕事に関わった。
要するに思想面の情報工作に暗躍したわけで、詳細な日記の抜粋からなる「記録編」には小泉信三、藤原弘達、鶴見俊輔、上山春平、江藤淳、神谷不二らそうそうたる顔ぶれが実名で登場する。中には新橋や渋谷のキャバレーを共に飲み歩いた話もあり、内調が日本の共産化防止のため、左派右派の秀才を次々に籠絡していたさまが手に取るようにわかるのだ。
(文藝春秋 1200円+税)
「内閣情報調査室」今井良著
発売1カ月で重版という話題の書。著者はNHKから民放に移籍したニュースマン。冒頭から日本のスパイ組織は3つあることを説明する。
警察庁警備局の公安警察、法務省外局の公安調査庁、そして総理大臣官房にある内閣情報調査室だ。内調トップは北村滋内閣情報官。元は野田民主党内閣で情報官に起用されたが、第2次安倍政権で留任し、いまや国政を牛耳る重要人物。
本書を読むとマスコミや世論操作など何でもござれの諜報機関だとわかる。
(幻冬舎 840円+税)
「官邸ポリス」幕蓮著
東大法学部卒の元警察庁キャリア官僚が書いたというのでこちらも大きな話題。匿名の作者探しでネットも大賑わいだ。表向きの主人公は東大法学部卒の若手警察官僚だが、実際のストーリーは明らかに、「官邸ポリス」を率いる現実の内閣情報官(をモデルにした人物)を中心に動く。
内助の功そっちのけのじゃじゃ馬ぶりでお騒がせの総理夫人の行確(行動確認)とモメ事処理。出会い系バー通いをすっぱ抜かれた文科省次官をマスコミ漏えいで辞職に追い込んだ事件。小説の出来はさておき、ヤメ警(元警察官)が経営する興信所が官邸ポリスの下請けとなって裏工作に走る姿などゾッとする実態はリアル。
(講談社 1600円+税)