「わたしの美しい庭」凪良ゆう著
統理と百音は、やや不思議な関係だ。統理の元妻が再婚して生まれたのが百音なのである。その百音の両親が交通事故で亡くなったので、統理が引き取って一緒に暮らしている。つまりこの2人は血がつながっていない。
「なさぬ仲は大変よ。しかも男手ひとつなんて」と近所のおばさんたちの噂話を盗み聞きしたのは百音が8歳のときで、その意味がよくわからなかった。彼女はとても幸福だったから。同じマンションの隣室に住むゲイの路有(統理の高校の同級生で、統理の部屋の鍵
を持っているので、勝手に入りこんでは朝食を作ってくれる)もいるし、百音には何の不満もない。
この3人を中心に物語は進んでいくが、前作「流浪の月」(これは傑作!)とは違って、特に事件らしい事件は起こらない。毎日が淡々と過ぎていく様子を描くだけだが、それがじわじわと読ませるから素晴らしい。
病院に勤務する桃子、彼女の初恋の人・坂口の弟、基。彼らを含め、生きづらさを感じている人々の日々をやさしく、丁寧に描いていくのだ。
この小説には5人が登場しているが、統理の視点だけがないことに留意。つまり統理が何を考えて百音を引き取ったのか、いま何を考えているのか、読者には知らされないのだ。だからその分だけ、この青年は幸福なんだろうかという思いが、ぐんぐん広がっていくのである。
(ポプラ社 1500円+税)