「ダイエットの神様」南綾子著
帯に大きく、「女よ、男なんかのために痩せるな」というコピーがついていて、それが目を引く。その下に小さく、「あなたの背中を押すハイカロリー小説」とある。うまいコピーだ。ダイエット小説であるのに、痩せるな、ハイカロリーを摂取せよ、というんだから、ぶっ飛んでいる。
舞台は、ダイエット界では神様といわれている伯母が経営するダイエット教室で、一度退会した会員を再度入会させれば5万円、という報酬につられて土肥恵太がアルバイトを始める、というのがメインストーリー。だからもちろん、ダイエットに苦しむ女性たちの奮闘ぶりが描かれるのだが、この連作長編の美点は、そのうちにダイエットそのものを否定し始めることだ。
たとえば、土肥恵太の同僚である小百合(ちなみに、彼女は巨漢である)の言を聞かれたい。彼女はこう言うのだ。
「あたしは自分の意志で食べる。その自分の選択の積み重ねでいまのこの体型がある。それを認めるよ。あたしはデブ。このデブの体型は、あたしが作った。年齢でも環境のせいでもない。でもいい。それが自分の足で立つってことだよ」
この小百合の強烈な個性が本書のキモ。スリムな女性がいいと思っている三十路の童貞土肥恵太を笑うように、小百合は邁進するのだ。痩せれば本当に幸せになれるのか、という疑問を読者に突きつけてくる小説だ。
(双葉社 1500円+税)