著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「熊の皮」ジェイムズ・A・マクラフリン著、青木千鶴訳

公開日: 更新日:

 ライスが管理人を務めている自然保護地区から、胆嚢を切り取られた熊の死体が発見されるのがこの長編の幕開けである。密猟者の仕業と思われるが、地元民の協力はなかなか得られない――と展開していくミステリーで、今年のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞を受賞した作品だ。

 この小説の冒頭は、ライスが刑務所に入っているくだりで、麻薬カルテルから送り込まれた殺し屋を倒すシーン。なぜ彼が刑務所に入っているのか、なぜ殺し屋が送り込まれてきたのかは、ゆっくりと語られていく。ライスの若き日のことが回想として随所に挿入されるのである。

 なかなかよくできたミステリーだが、実はこれ、犬好きにはたまらない小説といっていい。犬が次々に登場してくるのだ。犬が登場する小説は珍しくないが、「次々に」というのは珍しい。さらに特筆すべきは、どの犬もライスに親しげに近づいてくることだ。たとえば、彼が警察と現場に向かうシーンでは、まず2匹のラブラドルがライスに向かって小走りに駆けてくるのだが、それが「楽しげな表情」をしているのである。「楽しげな表情」だぜ。どんな表情だ。

 警察犬はもう1匹いて、それがでかいジャーマンシェパードのデレク。犯罪者を4人も病院送りにしているデレクがライスの顔をなめるシーンに留意。この男が自然を愛し、犬を愛していることが伝わってくる場面だ。 (早川書房 1900円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動