「熊の皮」ジェイムズ・A・マクラフリン著、青木千鶴訳
ライスが管理人を務めている自然保護地区から、胆嚢を切り取られた熊の死体が発見されるのがこの長編の幕開けである。密猟者の仕業と思われるが、地元民の協力はなかなか得られない――と展開していくミステリーで、今年のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞を受賞した作品だ。
この小説の冒頭は、ライスが刑務所に入っているくだりで、麻薬カルテルから送り込まれた殺し屋を倒すシーン。なぜ彼が刑務所に入っているのか、なぜ殺し屋が送り込まれてきたのかは、ゆっくりと語られていく。ライスの若き日のことが回想として随所に挿入されるのである。
なかなかよくできたミステリーだが、実はこれ、犬好きにはたまらない小説といっていい。犬が次々に登場してくるのだ。犬が登場する小説は珍しくないが、「次々に」というのは珍しい。さらに特筆すべきは、どの犬もライスに親しげに近づいてくることだ。たとえば、彼が警察と現場に向かうシーンでは、まず2匹のラブラドルがライスに向かって小走りに駆けてくるのだが、それが「楽しげな表情」をしているのである。「楽しげな表情」だぜ。どんな表情だ。
警察犬はもう1匹いて、それがでかいジャーマンシェパードのデレク。犯罪者を4人も病院送りにしているデレクがライスの顔をなめるシーンに留意。この男が自然を愛し、犬を愛していることが伝わってくる場面だ。 (早川書房 1900円+税)