「芽吹長屋仕合せ帖日照雨」志川節子著
志川節子は2003年にオール読物新人賞を受賞してデビューした作家だが、第1作品集「手のひら、ひらひら」が上梓されたのは2009年であった。その後も、10年間で6作しか上梓していないというのは、現代では寡作作家に入るだろう。志川節子はそういう作家である。だから、久々の新作がうれしい。
本書は「結び屋おえん」を主人公とするシリーズの第2作。ひょんなことから男女の仲をとりもって祝儀をもらったのをきっかけに、おえんは「ご縁とりもちます」の木札を戸口にかけているが、「ご祝儀だけで食べていけるほど世の中は甘かないよ。結び屋もいいけど、これまで通り、針仕事に身を入れることだね」と隣人のおさきの言う通り、これを専門職にするつもりはない。
それにもうひとつ、このヒロインは男女の仲をとりもつことだけを考えているわけではない。たとえば、悪事に巻き込まれた笹太郎の奉公先を探す一編「神かけて」を読まれたい。おえんはだまされた側の人間であるというのに、笹太郎の身の上話を聞くと、我慢できずに奉公先を探しまわる。根っからの世話好きなのである。
今回は、10年間も行方不明の長男が帰ってくるという新展開がある。背中に3つ、ほくろが並んでいるのは間違いなく長男だ。しかし、おえんはなんとなく釈然としない――と話は進んでいくが、この先を知りたい方は本書を当たられたい。 (新潮社 1600円+税)