「新蔵唐行き」志水辰夫著
岩船新蔵、ふたたびの登場である。前作「疾れ、新蔵」では、10歳の志保姫を国に届けるために旅に出たが(その途中で、駕籠かき2人、継ぎはぎだらけのぼろを着た若い娘、さらに彼女の連れたイノシシが合流して5人と1匹の旅になるところがケッサクだった)、今度はスケールがでかい。
新蔵は新潟の廻船問屋三国屋の手代として暮らしているが、乗った船が行方不明となった主家の若主人を捜すため長崎に行くのだ。さらに、父親に会いに行く若い娘を連れて唐に渡っていく。鉄芯入りの木刀を持って。
この木刀は、武者修行していた武芸者から、新蔵が13歳のときにもらったものである。山中で一心不乱に木刀を振っている男に「弟子にしてください」と頼み込み、1カ月だけ教えてもらったのだが、別れ際に師匠が鉄芯入りのその木刀をくれた。それ以来、いつも新蔵は木刀を離さない。
唐への旅に同行するのはもうひとり、得体の知れない藤若だ。悪党なので油断できないが憎めないところもある。こういうキャラクターを著者は好きなようで、前作に登場した駕籠かきの政吉と銀治に通底するものがある。
半分強のところでロードノベルとしてのゴールを迎えてしまうので、おや、どうなるんだろうと思っていると、新蔵はそこから修羅の世界の争いに巻き込まれていく。阿片戦争の真っ最中という時代を背景にした時代小説だが、志水辰夫はやっぱりいい。
(双葉社 1600円+税)